RECORD

Eno.427 大狼拾希の記録

X/1:■■拾希

最後に見たのは赤い空。
何かに掴まれて引きずり込まれる赤い空。

電話の着信音が聞こえる。
これは誰かの記憶か。山の中を走っていく。
何かから逃げるように走って走って走って。
そして、転んだ

バラバラになった肉体が踏切に転がる。山の中に踏切など無いだろう?

黒い大きな猫が歩いてくる。
その口が何かを口ずさんだように思えるが、やがて大きく口を開け牙を剥き―――

むしゃむしゃと、その誰かは食べられてしまった。

………。

景色が変わる。これは……昔のどこか。
道場で俺は積み上げられた訓練用の台に腰掛けて、誰かを見下ろしている。
俺より少し年上のひょろ長いそいつは、
軽い稽古にも関わらずぜえぜえと汗だくでへたり込んでいる。
情けない…だなんて思いはない。
俺だって、生まれついた体がなければこうなっていたのかも知れないのだから。

持て囃されるたび、期待されるたびに、俺の中の劣等感は募っていった。

『この子は血に選ばれた』



何が血だ。神だか化け物だかの末裔の血だから何だ。
誰も、"俺自身"を見てなどいなかった。

『      』


俺の傍で見ている。そいつだけはいつも俺を見て、俺と話をした。
だけど、誰もそいつを見ることなど無かった。
けどたまに……俺の前でへばっているこの大きいけど小さい兄弟が、
そいつと目を合わせているような。そんな気がしていたんだ。