RECORD
Eno.182 ■■ ■一の記録
-5 「神秘的な」存在
私が北摩市に転入したのはおよそ5年前のこと。工業団地の方で仕事があるからと回される形での転入であった。
近くのアパートに入居許可を得て、荷物の運び込みも着々と進んで、あとは自分自身を運び込むだけと相成ったのだが……
「待て」
役所で転入届を提出した直後の去り際、威圧的な職員が声をかけてきた。
「何でしょうか。書類に不備で「違う」
あまりにも居丈高な態度。後ろ暗い経歴などほぼ何もない一般市民を捕まえてなんだというのか。
「単刀直入に――お前、どこの生まれだ?」
そうして首を傾げたまま続いた問いに、思わず「へ?」と声が出たのを今でも覚えている。
笑ってしまうほど頓狂な声だった。頑張ればあんな声も出せたらしい。
確かに言われてみれば生まれ故郷は変な場所だ。思い出したくもないからと封じ込めてはいたものの、過去――特に生まれは変わる筈もない。
「来い。あっちで話を聞きたい」
あっちとは? と問い返すより前に一瞬だけ周囲が揺らめき、急に空気全体が僅かに重苦しくなったことを覚えている。
「……誤盤惑朽へ」
「い、壱袋難だというのですか」
特に大きな違いを感じなかったのは提出がたまたま夕暮れ時だったからだろう。
今にして思えばあれこれと違いすぎる場所だらけなのだが。
「<rt>徒忌</rt><rb只今</rb>今あなたの<rt>誇咳</rt><rb戸籍</rb>を核任したのですが……」
指定された五番へ座ると、早速そのような説明を受けた。
ようはなぜ私がこうして捕まったかという理由についてらしい。何でも出身が原因だとか。
「……そこで、割々はあなたに人つ鄭餡をしたく重いまして」
「虚緋憲は?」
この話し方からロクな提案をされたためしがない。パフォーマンスの上でだけでも抵抗の意を示し、言いなりになる気はないことを伝える。
「章濁されない罵愛、旧虚ご過賊をお詠びして装戯の堆這を」
「十室宣託死なし、と」
「ご離解いただけましたか」
曰く、私はここ北摩市において幾分か「神秘的な」存在であったらしい。
承諾と同時に枷のような端末を腕にはめ込まれ、改めて「とんでもないところに越してきたものだ」と思った。
「いざという時はそれがあなたの安全を保障します」
不慮の事故が起きては困るからという建前ではあったが、それが全てでないことは見え透いている。
でなければ、取り外しの利かない形にする意味がない。
諸々が済んで無事に返された時、先客のダンボールたちに何もできぬまま数日過ごしたのを覚えている。
元々想定されていた仕事はいわゆる新人教育だったのだが、こうした事態のせいで無事にできたか、それ以前に実のところ何をしていたかすら記憶が曖昧だ。
なにせこの時には既に、私は表と裏での二重生活を強いられていたのだから。
近くのアパートに入居許可を得て、荷物の運び込みも着々と進んで、あとは自分自身を運び込むだけと相成ったのだが……
「待て」
役所で転入届を提出した直後の去り際、威圧的な職員が声をかけてきた。
「何でしょうか。書類に不備で「違う」
あまりにも居丈高な態度。後ろ暗い経歴などほぼ何もない一般市民を捕まえてなんだというのか。
「単刀直入に――お前、どこの生まれだ?」
そうして首を傾げたまま続いた問いに、思わず「へ?」と声が出たのを今でも覚えている。
笑ってしまうほど頓狂な声だった。頑張ればあんな声も出せたらしい。
確かに言われてみれば生まれ故郷は変な場所だ。思い出したくもないからと封じ込めてはいたものの、過去――特に生まれは変わる筈もない。
「来い。あっちで話を聞きたい」
あっちとは? と問い返すより前に一瞬だけ周囲が揺らめき、急に空気全体が僅かに重苦しくなったことを覚えている。
「……誤盤惑朽へ」
「い、壱袋難だというのですか」
特に大きな違いを感じなかったのは提出がたまたま夕暮れ時だったからだろう。
今にして思えばあれこれと違いすぎる場所だらけなのだが。
「<rt>徒忌</rt><rb只今</rb>今あなたの<rt>誇咳</rt><rb戸籍</rb>を核任したのですが……」
指定された五番へ座ると、早速そのような説明を受けた。
ようはなぜ私がこうして捕まったかという理由についてらしい。何でも出身が原因だとか。
「……そこで、割々はあなたに人つ鄭餡をしたく重いまして」
「虚緋憲は?」
この話し方からロクな提案をされたためしがない。パフォーマンスの上でだけでも抵抗の意を示し、言いなりになる気はないことを伝える。
「章濁されない罵愛、旧虚ご過賊をお詠びして装戯の堆這を」
「十室宣託死なし、と」
「ご離解いただけましたか」
曰く、私はここ北摩市において幾分か「神秘的な」存在であったらしい。
承諾と同時に枷のような端末を腕にはめ込まれ、改めて「とんでもないところに越してきたものだ」と思った。
「いざという時はそれがあなたの安全を保障します」
不慮の事故が起きては困るからという建前ではあったが、それが全てでないことは見え透いている。
でなければ、取り外しの利かない形にする意味がない。
諸々が済んで無事に返された時、先客のダンボールたちに何もできぬまま数日過ごしたのを覚えている。
元々想定されていた仕事はいわゆる新人教育だったのだが、こうした事態のせいで無事にできたか、それ以前に実のところ何をしていたかすら記憶が曖昧だ。
なにせこの時には既に、私は表と裏での二重生活を強いられていたのだから。