RECORD

Eno.26 朔 初の記録

CASE:3



──数日が経った。

大体はクラスの自己紹介なんてものは意味を持たなくて、小学校でおんなじクラスか、仲良かった子同士で固まるのが常なことだろう。

自分もまたその例に問わず、小学校の友人とばかり話していた。
中学上がってもあんまり変わらないね、って。
そう思うのは、きっとその友達とばっかり話しているからだし。
私は、制服だとか、背が自分より高い3年の先輩だとか、広い教室だとか。
小学生のところは、決定的に違うところがあったから、じつはそわそわしていた。
だから、新しい子よりも、今までの子を求めていたのだった。
クラスにはわざわざ別のクラスまで話に行く人もいたが。
女の子はそんな感じ。

男の子たちは、案外違う学校でも仲良くし始めている、そんな空気があった。
クラス内でもゆるい仲の良さの塊ができつつあって、うるさい。
男子の声ってなんであんなにやかましいんだろうな。
ハスキーな声変わりかけている声に、なんとなくやな響きがあった。


そんな中で。


あの子は、ひとりぼっちだった。
席が近いから嫌でも目についた。
あの子は、いつもぼうっとしていた。
授業態度が悪いわけではなくて、ちゃんとしっかり受けているのだけども。
時折上をぼうっと見上げて、その瞳には何も映ってないかのようで。
ただただ、眠たげにまなこを擦って、デモノートを書いているようで。

どこか、上の空だった。

クラスの子が話しかけようなものなら、びっくり、というように大きなまなこを丸くしてみせて。
適当な言い訳をして逃げていってしまう。
授業中、グループでの言葉の交わし合いとかはするのだけども。
それも控えめで、すこし話せばだんまりだった。

小動物。



「うさぎみたいな子だよね〜」



「小さくて、可愛くて」




「臆病で…人見知り」




「飛んで跳ねてすぐに逃げてっちゃうから」




──そんな評価だった。
目立つ子だったから、きっと誰かが声をかけるだろうと思っていたのだけども。
誰にも声をかけられることはなく、ただ日々が過ぎていった。
ただ、その子はやっぱりぼうっとして、寂しそうではなかった。




「あのさ〜、クラスSURF作らん?他クラも作ってるらしいし」



「そんなんいるか?いらんだろ。学校にはデバイスもってこれないんだから」




デバイス。
どこかの都市ではスマートデバイスってものがあるらしいけど。
ここでは、スマホのことだった。



「いるよ〜、じゃ、おーい、みんな〜」




そうやって、クラスにいた人たちがみんなそっちの方を向く。
その人たちのいうみんなは、いつか“その人たちにとってのみんな”になるのかも知れないが。
入学したての今は、きっとみんなだった。

各自が自分のIDを書いていく。
家帰ったら招待送るわ〜、という人たち。
私も、その集団に混じっていた。

仲間はずれは、避けたかったから。
ハブにされるのって、とても怖いことだった。


その子がどう思ったかは知らない。


家に帰ってからグループに入って、メンバーの一覧を見た時。



「……」




“はつ”

その名前はなかった。

最初からその子はそこに入ることはなくて。
スマホを持ってないのか、自分から入らないのかはわからないし。
そもそも、その子以外に入ってない子もいたけど。
いつもクラスの中で身をただこめているのが気になっていたから。



「……」



やかましい通知の音が聞こえている。
グループは大盛り上がりのようで、どこか遠いところの場所に感じられていた。
賑わいの中に交わらない私だった。
友人もそうだったみたいで、辟易したメッセージが届いていたくらいに。
あたしたちなんであそこにいるんだろうなって。

そんなことたわいもない。






「あの」


「あのさ、」



──だから、思い切って話してみることにしたのだ。
私が声をかければ、その子は夢現から帰ってくるようだった。
一気に現実に引き戻されたようにして、あの、ごめんなさい、私、なんて言って立ち上がるから。


「ま、」

「まってぇ?!」

自分でも上擦った声が出ていたんだろう。
近くにいた友人に、吹き出された休み時間。
その友人以外にこの声に気がつく人は、その子しかいなくて良かった。
耳が赤くなっていくのを感じられる中。


「……」




「……ふふ、」




小さく小さく笑うその子の笑顔は。
今まで見ていた怯えとは打って変わっていた。

私も緊張している。
あなたも緊張している。
それを再確認する手触りのように。

そんな当たり前のことを私は忘れていた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
変なことを言わなければ。
変なことをしなければ。
知ってる人はいないんだから。
きっと、

きっと。



普通の女の子の顔だった。