RECORD
Eno.26 朔 初の記録
──数日が経った。
大体はクラスの自己紹介なんてものは意味を持たなくて、小学校でおんなじクラスか、仲良かった子同士で固まるのが常なことだろう。
自分もまたその例に問わず、小学校の友人とばかり話していた。
中学上がってもあんまり変わらないね、って。
そう思うのは、きっとその友達とばっかり話しているからだし。
私は、制服だとか、背が自分より高い3年の先輩だとか、広い教室だとか。
小学生のところは、決定的に違うところがあったから、じつはそわそわしていた。
だから、新しい子よりも、今までの子を求めていたのだった。
クラスにはわざわざ別のクラスまで話に行く人もいたが。
女の子はそんな感じ。
男の子たちは、案外違う学校でも仲良くし始めている、そんな空気があった。
クラス内でもゆるい仲の良さの塊ができつつあって、うるさい。
男子の声ってなんであんなにやかましいんだろうな。
ハスキーな声変わりかけている声に、なんとなくやな響きがあった。
そんな中で。
あの子は、ひとりぼっちだった。
席が近いから嫌でも目についた。
あの子は、いつもぼうっとしていた。
授業態度が悪いわけではなくて、ちゃんとしっかり受けているのだけども。
時折上をぼうっと見上げて、その瞳には何も映ってないかのようで。
ただただ、眠たげにまなこを擦って、デモノートを書いているようで。
どこか、上の空だった。
クラスの子が話しかけようなものなら、びっくり、というように大きなまなこを丸くしてみせて。
適当な言い訳をして逃げていってしまう。
授業中、グループでの言葉の交わし合いとかはするのだけども。
それも控えめで、すこし話せばだんまりだった。
小動物。
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──そんな評価だった。
目立つ子だったから、きっと誰かが声をかけるだろうと思っていたのだけども。
誰にも声をかけられることはなく、ただ日々が過ぎていった。
ただ、その子はやっぱりぼうっとして、寂しそうではなかった。
◇
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デバイス。
どこかの都市ではスマートデバイスってものがあるらしいけど。
ここでは、スマホのことだった。
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そうやって、クラスにいた人たちがみんなそっちの方を向く。
その人たちのいうみんなは、いつか“その人たちにとってのみんな”になるのかも知れないが。
入学したての今は、きっとみんなだった。
各自が自分のIDを書いていく。
家帰ったら招待送るわ〜、という人たち。
私も、その集団に混じっていた。
仲間はずれは、避けたかったから。
ハブにされるのって、とても怖いことだった。
その子がどう思ったかは知らない。
家に帰ってからグループに入って、メンバーの一覧を見た時。
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“はつ”
その名前はなかった。
最初からその子はそこに入ることはなくて。
スマホを持ってないのか、自分から入らないのかはわからないし。
そもそも、その子以外に入ってない子もいたけど。
いつもクラスの中で身をただこめているのが気になっていたから。
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やかましい通知の音が聞こえている。
グループは大盛り上がりのようで、どこか遠いところの場所に感じられていた。
賑わいの中に交わらない私だった。
友人もそうだったみたいで、辟易したメッセージが届いていたくらいに。
あたしたちなんであそこにいるんだろうなって。
そんなことたわいもない。
◇
「あの」
「あのさ、」
──だから、思い切って話してみることにしたのだ。
私が声をかければ、その子は夢現から帰ってくるようだった。
一気に現実に引き戻されたようにして、あの、ごめんなさい、私、なんて言って立ち上がるから。
「ま、」
「まってぇ?!」
自分でも上擦った声が出ていたんだろう。
近くにいた友人に、吹き出された休み時間。
その友人以外にこの声に気がつく人は、その子しかいなくて良かった。
耳が赤くなっていくのを感じられる中。
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小さく小さく笑うその子の笑顔は。
今まで見ていた怯えとは打って変わっていた。
私も緊張している。
あなたも緊張している。
それを再確認する手触りのように。
そんな当たり前のことを私は忘れていた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
変なことを言わなければ。
変なことをしなければ。
知ってる人はいないんだから。
きっと、
きっと。
普通の女の子の顔だった。
CASE:3
──数日が経った。
大体はクラスの自己紹介なんてものは意味を持たなくて、小学校でおんなじクラスか、仲良かった子同士で固まるのが常なことだろう。
自分もまたその例に問わず、小学校の友人とばかり話していた。
中学上がってもあんまり変わらないね、って。
そう思うのは、きっとその友達とばっかり話しているからだし。
私は、制服だとか、背が自分より高い3年の先輩だとか、広い教室だとか。
小学生のところは、決定的に違うところがあったから、じつはそわそわしていた。
だから、新しい子よりも、今までの子を求めていたのだった。
クラスにはわざわざ別のクラスまで話に行く人もいたが。
女の子はそんな感じ。
男の子たちは、案外違う学校でも仲良くし始めている、そんな空気があった。
クラス内でもゆるい仲の良さの塊ができつつあって、うるさい。
男子の声ってなんであんなにやかましいんだろうな。
ハスキーな声変わりかけている声に、なんとなくやな響きがあった。
そんな中で。
あの子は、ひとりぼっちだった。
席が近いから嫌でも目についた。
あの子は、いつもぼうっとしていた。
授業態度が悪いわけではなくて、ちゃんとしっかり受けているのだけども。
時折上をぼうっと見上げて、その瞳には何も映ってないかのようで。
ただただ、眠たげにまなこを擦って、デモノートを書いているようで。
どこか、上の空だった。
クラスの子が話しかけようなものなら、びっくり、というように大きなまなこを丸くしてみせて。
適当な言い訳をして逃げていってしまう。
授業中、グループでの言葉の交わし合いとかはするのだけども。
それも控えめで、すこし話せばだんまりだった。
小動物。
「うさぎみたいな子だよね〜」
「小さくて、可愛くて」
「臆病で…人見知り」
「飛んで跳ねてすぐに逃げてっちゃうから」
──そんな評価だった。
目立つ子だったから、きっと誰かが声をかけるだろうと思っていたのだけども。
誰にも声をかけられることはなく、ただ日々が過ぎていった。
ただ、その子はやっぱりぼうっとして、寂しそうではなかった。
◇
「あのさ〜、クラスSURF作らん?他クラも作ってるらしいし」
「そんなんいるか?いらんだろ。学校にはデバイスもってこれないんだから」
デバイス。
どこかの都市ではスマートデバイスってものがあるらしいけど。
ここでは、スマホのことだった。
「いるよ〜、じゃ、おーい、みんな〜」
そうやって、クラスにいた人たちがみんなそっちの方を向く。
その人たちのいうみんなは、いつか“その人たちにとってのみんな”になるのかも知れないが。
入学したての今は、きっとみんなだった。
各自が自分のIDを書いていく。
家帰ったら招待送るわ〜、という人たち。
私も、その集団に混じっていた。
仲間はずれは、避けたかったから。
ハブにされるのって、とても怖いことだった。
その子がどう思ったかは知らない。
家に帰ってからグループに入って、メンバーの一覧を見た時。
「……」
“はつ”
その名前はなかった。
最初からその子はそこに入ることはなくて。
スマホを持ってないのか、自分から入らないのかはわからないし。
そもそも、その子以外に入ってない子もいたけど。
いつもクラスの中で身をただこめているのが気になっていたから。
「……」
やかましい通知の音が聞こえている。
グループは大盛り上がりのようで、どこか遠いところの場所に感じられていた。
賑わいの中に交わらない私だった。
友人もそうだったみたいで、辟易したメッセージが届いていたくらいに。
あたしたちなんであそこにいるんだろうなって。
そんなことたわいもない。
◇
「あの」
「あのさ、」
──だから、思い切って話してみることにしたのだ。
私が声をかければ、その子は夢現から帰ってくるようだった。
一気に現実に引き戻されたようにして、あの、ごめんなさい、私、なんて言って立ち上がるから。
「ま、」
「まってぇ?!」
自分でも上擦った声が出ていたんだろう。
近くにいた友人に、吹き出された休み時間。
その友人以外にこの声に気がつく人は、その子しかいなくて良かった。
耳が赤くなっていくのを感じられる中。
「……」
「……ふふ、」
小さく小さく笑うその子の笑顔は。
今まで見ていた怯えとは打って変わっていた。
私も緊張している。
あなたも緊張している。
それを再確認する手触りのように。
そんな当たり前のことを私は忘れていた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
変なことを言わなければ。
変なことをしなければ。
知ってる人はいないんだから。
きっと、
きっと。
普通の女の子の顔だった。