RECORD

Eno.773 朱篠 真澄の記録

【月光】①

よく踊る足は勇ましくもあり、大変力強くもある。
楽しそうに舞う姿は誰をも笑顔にさせてくれるだろう。
何処までもくるり、くるりと回る君はいつまでも憧れであった。

人は彼を陽のようだと例えるだろう。
けれど自分は月のようだと例えるだろう。

確かにどちらも綺麗な光を纏って輝いている。されど眩しすぎる太陽は長い時の中で直視出来ない。出来たとしても視界が白くなって見えなくなるだろう。

月の光は柔らかく、そして寄り添ってくれるような。
暖かさは陽の方が勝っているだろう。しかし月には隣人のように静かに傍に居てくれている。
そんな月に俺は感謝の言葉を伝え、尊敬の念を抱く。それと同時に羨ましさと己の小ささを何度も抱く。

自分は君のようには踊れない。踊り方を間違ってしまったから。
自分は君のように舞えない。足が絡まって転けてしまうから。
自分はずっとは回れない。すぐに力尽きてしまうから。
空を見上げる事しか出来ない。窓から入ってくる光を認識する事しか出来ない。

否、その光を見る権利すら今の自分には無いのだろう。
たった1度の失敗で踊るのを辞めてしまったから。
幼い頃から君はずっと上手に踊ってきたのに。隣にすら居るのも烏滸がましく思えてきた事もあった。

所謂劣等感というものだろう。

踊れなくなる程の怪我もしていないのに、たった1つのきっかけで嫌になって手放して。
時折カーテンを閉じて穏やかな光すらも見えなくして。
そうやって塞ぎ込む自分を君はどう思っているのだろうかと、勝手に不安になって一人震えている。

姿は近いのに心は遠いところにいる。それでも君は飽きずに自分の傍に居てくれる。
でもその足が離れるのは怖い。しかし離れてしまうという事は自業自得とも言えよう。


あぁ、でも。


君は君の居心地のいい場所に居て欲しいとも願っている。そんな自分はなんと、なんと矛盾していて我儘な事だろうか。
踊っている君を遠くから見るのは辛いが、決して悪くないとも言えるだろう。
君が元気ならそれでいい、笑っていてくれるならそれでいい。

そこに自分が居なくても。自分の気持ちに気付いていなくても。活躍している姿が分かればそれでいい、と。
少なくとも今の自分は君のステージの最前列で見て良いような存在ではない。
君の事を頼りにしている人の元へ行く方がきっと。きっと今以上に幸せになれるんだろう。




誰か笑ってくれよ。こんな矛盾だらけの心を、情けない思考を、全てが曖昧でめちゃくちゃな自分を。
もう自分でもどうしようもないんだ。救われたいのに自分自身が嫌がっているんだ。
暖かな月の光から嫌われるのも、嫌いになるのも息が苦しくて視界がぼやけて。



早く、早く救われたい──





ぐちゃぐちゃな思いだけが自分の心を埋め尽くしていた。