RECORD

Eno.43 神林 雨の記録

5/26早朝

──日の色が空の向こう側に見える。
ちかちかとパソコンの光も部屋の内側で明滅しているのがわかった。
設定されたアラームの音はもう少し未来のものだったようで。
ふと時計を見ようとしてスマホに向け、手を伸ばし──

ぐら、と視界が揺れる。
耐えきれぬほどの頭痛と共に噎せ返るほどの強烈な吐き気に口を抑え。

「──、ぅ」

ベッドの隣、からっぽのはずの中身を吐き戻す。
酸い、苦く、鼻を侵す最悪な臭いがまた吐き気を誘ってくる。
掃除が面倒だとかそんな思考の余裕など、ない。
きもちわるい、くるしい、くるしい。

中身を出し切ってから天井を再び見上げた。
ぐるぐると視界が回っているようで、どこが角なのかすらもわからない。
そのくせ頭は冴えていて、自分の言葉ばかり浮かんでは消えゆく。

初めて、自分勝手なことを言った気がする。
初めて、他人を傷つけることを言った気がする。
初めて、うめのことを否定する言葉を言った気がする。

ただでさえ、鬱屈した壊れかけの自己肯定感を、己の心を引っ掻き回す何かが。
いやに暴れている。いやに意識できてしまう。いやに、──

……つう、と涙が流れる感触に気づく。
ここにきて私は、誰のために涙を流しているんだろう。
誰のために雨を降らせているんだろう。

ただただ、後悔と嘆きと無力感と、自責ばかりが頭の中を駆け巡っている。
結局、自分のことで涙を流しているじゃないか。ださすぎる。
それでも、うめの顔や背中だけは頭に浮かぶのだから、救いようがない。

うめの為になる事ってなんだ。
うめの幸いってなんだ。

私の幸いってなんだ。
私の幸いは隣人の幸いだが。

でも、彼らの幸いはわからない。
私一人が掬われることはできない。
私一人の情動の為だけに言葉をぶつけたくはない。

ぶつけるから。

こうなる。

ぶつけるから。

また私は影の底で怪物になるしかないのだ。



スマホを触り、部長に向けて連絡を送る。
一日くらい、動けない日があっても、いいだろう。

めちゃくちゃになった頭の中、頭痛で掻き消され。
うめき声をあげながら、毛布の中に怯えるように閉じこもった。

今日だけは、今日だけは許してください。
かみさま。おねがいします。

今日だけは、わたしをみないでいて。