RECORD

Eno.43 神林 雨の記録

猫の独白

主は人を信じていない。
主は人を恐れている。
主は人の底を見たがる。
主は人の内面を知りたがる。

それはなぜか、怖がりだからだ。

親に、人に、世界に、なにもかもに怯えた子供時代の。
黙し、抑圧し続けることで生き延びた、選択を誤り続けた子供の末路でしかない。

だから人の表の真意を推し量りたがる。
だからあらゆる情動に敏感に反応する。

言い換えれば。
あらゆるものに対して疑り深いという事でもある。
自身の価値を他者の情動でしか測れないゆえに。

何よりも他者が必要なのに、その他者を疑わねば生きていけない。

孤独では生きていけない価値観を持つのに、
孤独を選択しなければ悲鳴を上げるような性格。

矛盾を抱え続けて生きている。
常に心から血を流し続けている。

心の痛みに鈍いのではない。
自分自身に向き合えないのではない。

あまりの激痛故に正面から向き合えば気が狂うからだ。
それでも逃げずに時間をかけようとするのだから。

当然ながら壊れる。
一度壊れれば。

元には戻らない。
同じ人でも、性格が変わったみたいに印象が違う。

いや、本当に。
変わってしまったのかもしれないね。

仮面をかぶっているとか、そういう話ではない。
本人の感覚としても、最も沈んでいた時期以前と全く違うのだから。

昔の雨が、もう見れないのと同じなだけだ。
今の方が明るく、それでいて生きやすいのならば、良いことだ。

だが、周りの人の眼にはどう映るだろう。
人が変わりすぎれば恐怖を覚えるのだろうか。
以前の雨が見れないからと嘆くのだろうか。

なにが正解なのだろう。

猫はただ、見守るしかできない故に。