RECORD
𝑪𝒂𝒏 𝒚𝒐𝒖 𝒊𝒎𝒂𝒈𝒊𝒏𝒆 𝒉𝒐𝒘 𝒉𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒕𝒉𝒂𝒕 𝒘𝒐𝒖𝒍𝒅 𝒃𝒆?
黄昏色をした、とても綺麗な庭園だった。
だけど、見蕩れているような時間は用意されていなかった。
そこには、七未さんと、陶椛ちゃんがいて。
―――陶椛ちゃんは、怪奇たちと、戦って、いた。
その帰り道、ひとつばかりが頭の隅にこびりつく。
わたしは、見ていることしかできなくて、
何の役にも立てなかったんだってこと。
―――物陰で、再度、ざわ、と何かが蠢いた。
先程のものと同じ、怪奇たち。
それが先程と比にならない量、忍び寄るように近付いてくる。
囲まれている、と気付くまでに時は必要ない。
黄昏色に染まる地面が、かれらの影で染まっていく。
そうして。その、道すがら。
陶椛ちゃんひとりでどうにかなんてできそうにない数の怪奇たちの中。
そうやって、七未さんも、
古い型のケータイを手に、怪奇たちを退け始めて。
わたしは。
わたしは、
……
…………
………………………………
―――友人たちが、戦っている。
同じ教室で同じ授業を受けて、
休みの日に一緒にお出かけをして、
やっと名前で呼べるようになった彼女が。
袋いっぱいのドーナツを食べながら、
春のジュースと夏のジュースを分け合って
笑い合った彼女が。
戦っている。
……戦って、いる。
▽
(……わたしは)
どうして、
今、ここにいるのだろう。
何のために、
今、ここにいるのだろう。
何のために、
特別民間協力者に、志願をしたのだろう。
手のひらをぎゅうと握り締める。
そんなことしか、今、わたしにはできないのに。
▽
友達が襲われようとしているのに、
それに気付くことができたのに、
(………け)
この身体は恐怖に竦み、
ひとつも動いてくれなかった。
(……うごけ…っ)
そして、今もまた、
こうしてる間にも目の前で友人が傷ついている。
傷の処置のひとつ。
どんなに必死で学んだって。
いざというとき、こんなに役に立たないんじゃ、
―――こんなに、足でまといなんじゃ、
▽
そう、思うのに。
まだ動けない、この身体は、
あの日の決心を、裏切り続けている。
そんなことに、些細な幻滅を抱く。
ちょうど、そのときのことだった。
▽
その、かおりを
わたしはしっている。
刹那。
不意に、ぶわりと、周囲の空気が質量を持つ。
厳密には空気ではない。
そしてそれは決して、突然現れたわけでもありはしなかった。
それは最初からそこにいて、
けれど触れることも見ることも叶わなくて、
それなのに―――確かにその存在だけは知っていた。
(…………、そっか)
▽
わたしは、しっている。
「……ずっと、そこにいたんだね」
「 」
些細な、声一つ。
戦闘の喧騒に、溶けて消える。
「だったら、お願い……
……わたしに、ちからを、貸して……―――」
▽
……ありがとう、 だいすきだよ―――――「 」。
「―――っ」
そう手を振り翳すと、"それら"は声に応えてくれる。
幾多数多の霊障たち。
甘い香りと共に姿を見せた"それら"は、
歌うような、もしくは遊ぶような、
もしくはなんの意味もないだけの高い風音を立てて、
友人たちを取り囲む怪奇たち目掛け猛スピードで駆け抜ける。
その身そのものが神秘でできた"それら"は、
怪奇とぶつかり身を削り合い、最終的には霧散する。
しかしその都度新たな"それら"が湧き出ては、
おんなじように使役を受けて、身を削りあってはまた霧散する。
「……っ、陶椛ちゃん!七未さん!」
甘い、香りが、場に満ちる。
その中心で、守られていた少女は、
守りたかった彼女たちに向けて、大きく、声を張り上げた。
▽
わたしね、こわく、なかったよ。
戦う陶椛ちゃんを見ても、こわいだなんて、少しも思わなかったんだよ。
だって。
神秘を扱って、戦って―――そんな姿を、わたしに見られた直後でも
いつもとおんなじみたいに、わたしたちのこと、気遣って。
空気を明るく、してくれて。
そんな、いつもとおんなじ、
やさしい、自慢のともだちの、陶椛ちゃんのままだったもん。
だから、うれしかったんだ。
見ているだけより、ずっと、ず~っと、うれしかったんだ。
だから。
だからね、……わたしは―――
少しも、迷ったりなんか、しなかったんだ。
……
…………
こうしてわたしは、戦う力を手に入れた。
だいすきな日常を、表世界を―――ぜんぶを守るために振るえる力を。
そして、同時に、思い出したんだ。
甘い、甘い、花の香りが、ずっとわたしのことを、包んでくれていたことを。









