RECORD
Eno.288 鳴宮結華の記録
幼い頃から、結華は本が好きだった。
完全なファンタジーには心惹かれなかった。
日常の中に潜む非日常に憧れていた。
いつしか少女は筆を取って、
そんな話を書くようになっていた。

今日も、部屋の外で声がする。
怒鳴り声、殴打の音。
何が起きているか知っている。
それが自分に向かないことも。

イヤフォンをして音楽を流して、
パソコンに向かった。
現実から目を背けて、書き途中の原稿へ。
小説家、碧柳蝶華。それが結華のもう一つの名。
ちゃんと本になったことはないけれど。
ネットでしか公開したことがないけれど。
描きたいものがあった。
結華の胸には“不思議”への憧れがあった。
それを周りが乱すならば抵抗するが、
自分に害がないのなら、まぁ。
カタカタカタ。キーボードの音が響く。
集中して文字を打ってしばらく。
片方しか見えぬ目の疲労を感じ、
データを上書き保存してパソコンを閉じた。
明日投稿する分は書けたかな。
ちょっと休もうかな。

春になったら、夢への道が開く。
専門学校に行ったなら、この家とも離れられる。
その先で、どんな日々が待つだろう?
わくわくする心、胸の内に秘めた。
親が己を顧みないのを良いことに、
華は咲く場所を自ら選んだ。
咲く場所を選べず檻に囚われている姉を想った。
今のわたしでは救えないな。

貴方を救うよと誓っている。
秘密をひとつ、胸に抱えて。
ひとつ、伸びをした。
さぁて、今日も端末を開いて
インターネットの海に沈もう。
様々な“不思議”の話を聞いては、
それを創作の糧にしていた。
【0 華は“不思議”に夢を見る】
幼い頃から、結華は本が好きだった。
完全なファンタジーには心惹かれなかった。
日常の中に潜む非日常に憧れていた。
いつしか少女は筆を取って、
そんな話を書くようになっていた。

「…………」
今日も、部屋の外で声がする。
怒鳴り声、殴打の音。
何が起きているか知っている。
それが自分に向かないことも。

「…………」
イヤフォンをして音楽を流して、
パソコンに向かった。
現実から目を背けて、書き途中の原稿へ。
小説家、碧柳蝶華。それが結華のもう一つの名。
ちゃんと本になったことはないけれど。
ネットでしか公開したことがないけれど。
描きたいものがあった。
結華の胸には“不思議”への憧れがあった。
それを周りが乱すならば抵抗するが、
自分に害がないのなら、まぁ。
カタカタカタ。キーボードの音が響く。
集中して文字を打ってしばらく。
片方しか見えぬ目の疲労を感じ、
データを上書き保存してパソコンを閉じた。
明日投稿する分は書けたかな。
ちょっと休もうかな。

「……もうすぐ、春」
春になったら、夢への道が開く。
専門学校に行ったなら、この家とも離れられる。
その先で、どんな日々が待つだろう?
わくわくする心、胸の内に秘めた。
親が己を顧みないのを良いことに、
華は咲く場所を自ら選んだ。
咲く場所を選べず檻に囚われている姉を想った。
今のわたしでは救えないな。

「……でも、いつかは」
貴方を救うよと誓っている。
秘密をひとつ、胸に抱えて。
ひとつ、伸びをした。
さぁて、今日も端末を開いて
インターネットの海に沈もう。
様々な“不思議”の話を聞いては、
それを創作の糧にしていた。