RECORD
Eno.560 綴 椛の記録

ペンを置く。
今は、この先を綴る勇気はなかった。
それでも言葉にしなければならない。
書かなければいけない。
だってそれが、お兄ちゃんとの約束なのだから。
もう一度、ペンを握る。
潤む目で白い紙を見つめ、震えそうになる手でゆっくりと文字を書き出していく。
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──ぽた、と雫が落ちる。
便箋に水滴が滲み、じわりと染み込んでいく。
気づいてしまった。知ってしまった。
霊は神秘に分類され、神秘は科学的に解明されると消滅する。
つまり彼が……幽霊のお兄ちゃんが消えたのは、成仏したなんて平和な理由ではなく。
あの日、夕暮れの公園で自分が投げかけた言葉のせい。
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お母さんに否定されたことが悲しくて、
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ただお兄ちゃんに聞いて欲しくて、
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そんなことないよって言って欲しくて、
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盗み聞きした否定の言葉を、すべてお兄ちゃんにぶつけてしまった。
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震える手からペンが落ちる。
拾い上げることもできず、ぽたぽたと便箋に落ちる雫をただ見下ろした。


ごめんなさい。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
もう声も、顔も思い出せないお兄ちゃん。
この約束まで忘れてしまったら、お兄ちゃんのすべてが消えてしまう。
もう一度、この手でお兄ちゃんを殺してしまう。
だから、だからこそ。
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最後に残った約束を投げ出すことだけは、どうしたって出来はしない。
ペンを拾い、固く握る。
深く息を吸って、吐いて。
それでも落ち着かない呼吸をむりやり鎮めて、思いを文字に書き起こす。
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お兄ちゃんへ、と日付と共に封筒に書き記して封をする。
宛先はそれだけ。住所も名前も知りはしない。
どこにも出せず、誰にも届かない手紙をいつものように鞄へと仕舞い込んだ。
■通目 神秘・二

「……」
ペンを置く。
今は、この先を綴る勇気はなかった。
それでも言葉にしなければならない。
書かなければいけない。
だってそれが、お兄ちゃんとの約束なのだから。
もう一度、ペンを握る。
潤む目で白い紙を見つめ、震えそうになる手でゆっくりと文字を書き出していく。
お兄ちゃんが消えたのは 私のせいだったんですか?
──ぽた、と雫が落ちる。
便箋に水滴が滲み、じわりと染み込んでいく。
気づいてしまった。知ってしまった。
霊は神秘に分類され、神秘は科学的に解明されると消滅する。
つまり彼が……幽霊のお兄ちゃんが消えたのは、成仏したなんて平和な理由ではなく。
あの日、夕暮れの公園で自分が投げかけた言葉のせい。
『ママが、もみじが一人でしゃべってたっていうの。
なんにもいないとこで、おままごとしてるって』
お母さんに否定されたことが悲しくて、
『もみじがあたまの中でつくったお友だちとあそんでるって!』
ただお兄ちゃんに聞いて欲しくて、
『ぜんぶうそだっていうの! 子どもにはよくあることだって!』
そんなことないよって言って欲しくて、
『お兄ちゃんはほんとにいるもん!
もみじ、いっつもお兄ちゃんと……お兄ちゃん?』
盗み聞きした否定の言葉を、すべてお兄ちゃんにぶつけてしまった。
『お兄ちゃん? どこ、いったの……?』
震える手からペンが落ちる。
拾い上げることもできず、ぽたぽたと便箋に落ちる雫をただ見下ろした。

「……ぜんぶ、あたしのせいだったんだ……」

「……会いたい、なんて。
あたしが……言えることじゃ、なかった……っ」
ごめんなさい。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
もう声も、顔も思い出せないお兄ちゃん。
この約束まで忘れてしまったら、お兄ちゃんのすべてが消えてしまう。
もう一度、この手でお兄ちゃんを殺してしまう。
だから、だからこそ。
『お兄ちゃん、とおくに行っちゃうかもなの?』
『じゃあ、もみじお手紙かくよ!
お兄ちゃんもおへんじかいてね、やくそくね!』
最後に残った約束を投げ出すことだけは、どうしたって出来はしない。
ペンを拾い、固く握る。
深く息を吸って、吐いて。
それでも落ち着かない呼吸をむりやり鎮めて、思いを文字に書き起こす。
ごめんなさい。
お兄ちゃんに会って、謝れる日を、ずっとずっと待っています。
椛より
お兄ちゃんへ、と日付と共に封筒に書き記して封をする。
宛先はそれだけ。住所も名前も知りはしない。
どこにも出せず、誰にも届かない手紙をいつものように鞄へと仕舞い込んだ。