RECORD

Eno.560 綴 椛の記録

■通目 神秘・二


「……」


ペンを置く。
今は、この先を綴る勇気はなかった。

それでも言葉にしなければならない。
書かなければいけない。
だってそれが、お兄ちゃんとの約束なのだから。

もう一度、ペンを握る。
潤む目で白い紙を見つめ、震えそうになる手でゆっくりと文字を書き出していく。


お兄ちゃんが消えたのは 私のせいだったんですか?


──ぽた、と雫が落ちる。
便箋に水滴が滲み、じわりと染み込んでいく。

気づいてしまった。知ってしまった。
霊は神秘に分類され、神秘は科学的に解明されると消滅する。

つまり彼が……幽霊のお兄ちゃん・・・・・・・・が消えたのは、成仏したなんて平和な理由ではなく。
あの日、夕暮れの公園で自分が投げかけた言葉のせい。





『ママが、もみじが一人でしゃべってたっていうの。
 なんにもいないとこで、おままごとしてるって』


お母さんに否定されたことが悲しくて、

『もみじがあたまの中でつくったお友だちとあそんでるって!』


ただお兄ちゃんに聞いて欲しくて、

『ぜんぶうそだっていうの! 子どもにはよくあることだって!』


そんなことないよって言って欲しくて、

『お兄ちゃんはほんとにいるもん!
 もみじ、いっつもお兄ちゃんと……お兄ちゃん?』


盗み聞きした否定の言葉神秘の解明を、すべてお兄ちゃん神秘にぶつけてしまった。





『お兄ちゃん? どこ、いったの……?』







震える手からペンが落ちる。
拾い上げることもできず、ぽたぽたと便箋に落ちる雫をただ見下ろした。

「……ぜんぶ、あたしのせいだったんだ……」


「……会いたい、なんて。
 あたしが……言えることじゃ、なかった……っ」


ごめんなさい。

ごめんなさい、お兄ちゃん。

もう声も、顔も思い出せないお兄ちゃん。
この約束まで忘れてしまったら、お兄ちゃんのすべてが消えてしまう。
もう一度、この手でお兄ちゃんを殺してしまう。
だから、だからこそ。

『お兄ちゃん、とおくに行っちゃうかもなの?』


『じゃあ、もみじお手紙かくよ!
 お兄ちゃんもおへんじかいてね、やくそくね!』


最後に残った約束届かない手紙を投げ出すことだけは、どうしたって出来はしない。

ペンを拾い、固く握る。
深く息を吸って、吐いて。
それでも落ち着かない呼吸をむりやり鎮めて、思いを文字に書き起こす。


ごめんなさい。
お兄ちゃんに会って、謝れる日を、ずっとずっと待っています。

椛より


お兄ちゃんへ、と日付と共に封筒に書き記して封をする。
宛先はそれだけ。住所も名前も知りはしない。

どこにも出せず、誰にも届かない手紙をいつものように鞄へと仕舞い込んだ。