RECORD
Eno.139 浮季草 斂華の記録
人形遊びだとしても。
予定が色々と入っていて、待ち合わせは夜遅くになった。だからだろうか、余計に緊張するのは。
可愛いものは好きだった。それこそ、男の頃からだ。
動物に限らず、グッズや、雑誌の付録、アニメから何から何まで。高学年の頃には女子に混じれなくなったけれど、それでも好きなのには変わりなかったし、日曜朝は欠かさなかった。
だけど、自分を飾ろうとは思った事は無かった。少なくとも、可愛い服を着たいと思ったのは、物心着いた直後だけだった筈。
"俺"が男だった事に変わりは無く、また、男友達ともと過ごす様になって、"女だった俺"も可愛いものよりは「格好良い」が好ましかったのだ。
今回の目的は、うんと可愛い格好をして、何か心境に変化は出るか、というもの。
ろろぱーとの2階でイヨさんと待ち合わせて入店した店は、所謂、地雷系、というファッションの専門店。
先日誘いに乗って食事をした際に、派手に可愛いが比較的マシだ、と思った方。
……並べられた衣服の列を見て、その認識は完全におかしくなっていたと再確認したけれど。
色が少ないのに派手。細かな装飾が多く、ベース色は落ち着いている筈なのに、パステルカラーのアクセントが強く主張してくる。
それも、デザインが本当に様々ありすぎて、好きなのを選べ、と言われても困ってしまう。
ひとまず、その中でも落ち着いたデザインのものを選んでみたけれどしっくりこない。
イヨさんが選んだものは……装飾こそ少ないが、細かな意匠はよく見れば更に派手で、悪くは無いと思う。
ただ、目が回る。
これだけ多くの選択肢があり、未だ自分が何を着たいのかも分からないのだから、自分で決めるのは土台無理な話だ。
……そんな事を考えていたら。
「すいませーん?店員さん。
この子に似合いそうなのってどれだと思います?」
︙
そのまま、ずるずると、店内へと引きずりこまれていった。
遠慮はいらないと焚き付けられた店員さんに、あれよあれよと着せ替え人形にさせられて、全身が飾り付けられていく。
いつの間にか化粧と、アクセサリーまで付けられて、気が付いたときには全てが終わっていた。


鏡を見せられた瞬間、そこに映っていたのは、もはや自分ではなく、別の誰かだった。
しかし、自分が少し身震いをすれば、その通り動くから、確かに自分であると認識できる。
何かがぐちゃぐちゃになる。大成功であろう。当初の目論見は。

痛いほどに視線が刺さると感じる。何より、自分の鼓動が煩い。
感想はどうかと問われる。
どんな感想かって?こんなメイクをして、今まで付けなかった様なアクセサリーも付けて、何よりこんなガーリーな衣装なんて、着たことがないから、とても恥ずかしい。顔から火が出そう。例え自分がそうなるよう受け入れたとしても──。
──だけれども。

"自分"が可愛いのだと、思ってしまったのだから、正直に認めざるを得なかった。
ファンタジックな髪色と、絵本から飛び出てきた様な格好と、可愛らしいアクセサリーの複合体。
素面で見たら奇抜さや痛さが勝つだろうけれど、この場に限っては、間違いなく可愛い。
──もっと自分を可愛くしてみないかい?鏡の向こうの自分を着飾るみたいに、さ
そう問われ、考え込む。
可愛くなる。女子に混ざる。男だった自分が?
男だから。不誠実だから。可愛くしてはならないと思ったのに?
今、振り切って可愛くしてみて、鏡に映る自分は別人の様に思える。
──そして、思い当たる。

可愛くするべきだと思った。
なぜなら、これは女の自分が選ぶかもしれなかったものなのだから。
昔の"私"が可愛い格好が好きだった以上、元の"俺"が可愛い格好をしたいと思うようになる可能性だって十分にある。
その、あったはずの選択肢を、自分が断つべきではない。
──そう、眼の前の自分は、鏡の向こうの自分だ。浮季草 斂華ではあるけれど、"私"ではなくなってしまった"俺"のもの。
鏡の向こうの、今はない自分を飾りつける。それは一種の人形遊び、あるいは、仮面を付ける様なもの。
結局、可愛いものを着たいと思うようになった訳じゃないし、物凄く恥ずかしいままだけど、両親に"俺"を少しでも返す事につながるのなら、私は喜んで仮面を被って、可愛くあろうと思った。
次は化粧を教えてもらえることになって、その日はそれで解散。イヨさんに、車で家へと送ってもらった。
……そのままの格好で
……家のドアを開けたら、窓が割れるんじゃないかって位の、母さんの声が家中に響いた。
父さんは一瞬呆然としたあと……なんか「次の衣装は!?」ってノリノリになった。どうしてだろう。
とりあえず、慌てふためく二人を宥めて、なんとか落ち着かせて、最初に発した言葉は、

……店員さんに好き放題されたメイクは、めちゃくちゃ重かった。次回が今から気が重い。
──でも、その仮面は本当に"俺"の為のもの?
この煩いくらいの鼓動の理由は、恥ずかしさだけなの?
可愛いものは好きだった。それこそ、男の頃からだ。
動物に限らず、グッズや、雑誌の付録、アニメから何から何まで。高学年の頃には女子に混じれなくなったけれど、それでも好きなのには変わりなかったし、日曜朝は欠かさなかった。
だけど、自分を飾ろうとは思った事は無かった。少なくとも、可愛い服を着たいと思ったのは、物心着いた直後だけだった筈。
"俺"が男だった事に変わりは無く、また、男友達ともと過ごす様になって、"女だった俺"も可愛いものよりは「格好良い」が好ましかったのだ。
今回の目的は、うんと可愛い格好をして、何か心境に変化は出るか、というもの。
ろろぱーとの2階でイヨさんと待ち合わせて入店した店は、所謂、地雷系、というファッションの専門店。
先日誘いに乗って食事をした際に、派手に可愛いが比較的マシだ、と思った方。
……並べられた衣服の列を見て、その認識は完全におかしくなっていたと再確認したけれど。
色が少ないのに派手。細かな装飾が多く、ベース色は落ち着いている筈なのに、パステルカラーのアクセントが強く主張してくる。
それも、デザインが本当に様々ありすぎて、好きなのを選べ、と言われても困ってしまう。
ひとまず、その中でも落ち着いたデザインのものを選んでみたけれどしっくりこない。
イヨさんが選んだものは……装飾こそ少ないが、細かな意匠はよく見れば更に派手で、悪くは無いと思う。
ただ、目が回る。
これだけ多くの選択肢があり、未だ自分が何を着たいのかも分からないのだから、自分で決めるのは土台無理な話だ。
……そんな事を考えていたら。
「すいませーん?店員さん。
この子に似合いそうなのってどれだと思います?」
>>479061
「………………。
えっ。」
確かにそれは確実な一手だろう。
素人の審美眼よりプロの審美眼。
プロとは仮にもそれで飯を食っている者。
……ではあるけれど。
「いやっ、ちょ、まっ。」
当然、派手ではない方が良い、などという彼女の事情など考慮するはずもなく……!
ずるずると流されるままに更衣室へ連れてかれていく……。
そのまま、ずるずると、店内へと引きずりこまれていった。
遠慮はいらないと焚き付けられた店員さんに、あれよあれよと着せ替え人形にさせられて、全身が飾り付けられていく。
いつの間にか化粧と、アクセサリーまで付けられて、気が付いたときには全てが終わっていた。


「これ……私……?」
鏡を見せられた瞬間、そこに映っていたのは、もはや自分ではなく、別の誰かだった。
しかし、自分が少し身震いをすれば、その通り動くから、確かに自分であると認識できる。
何かがぐちゃぐちゃになる。大成功であろう。当初の目論見は。

「いや、その……。
はっず……。」
痛いほどに視線が刺さると感じる。何より、自分の鼓動が煩い。
感想はどうかと問われる。
どんな感想かって?こんなメイクをして、今まで付けなかった様なアクセサリーも付けて、何よりこんなガーリーな衣装なんて、着たことがないから、とても恥ずかしい。顔から火が出そう。例え自分がそうなるよう受け入れたとしても──。
──だけれども。

「でも……これは……その……。
可愛い、んじゃないすか、私、が……。」
"自分"が可愛いのだと、思ってしまったのだから、正直に認めざるを得なかった。
ファンタジックな髪色と、絵本から飛び出てきた様な格好と、可愛らしいアクセサリーの複合体。
素面で見たら奇抜さや痛さが勝つだろうけれど、この場に限っては、間違いなく可愛い。
──もっと自分を可愛くしてみないかい?鏡の向こうの自分を着飾るみたいに、さ
そう問われ、考え込む。
可愛くなる。女子に混ざる。男だった自分が?
男だから。不誠実だから。可愛くしてはならないと思ったのに?
今、振り切って可愛くしてみて、鏡に映る自分は別人の様に思える。
──そして、思い当たる。

「可愛く、して、みたいです……。」
可愛くするべきだと思った。
なぜなら、これは女の自分が選ぶかもしれなかったものなのだから。
昔の"私"が可愛い格好が好きだった以上、元の"俺"が可愛い格好をしたいと思うようになる可能性だって十分にある。
その、あったはずの選択肢を、自分が断つべきではない。
──そう、眼の前の自分は、鏡の向こうの自分だ。浮季草 斂華ではあるけれど、"私"ではなくなってしまった"俺"のもの。
鏡の向こうの、今はない自分を飾りつける。それは一種の人形遊び、あるいは、仮面を付ける様なもの。
結局、可愛いものを着たいと思うようになった訳じゃないし、物凄く恥ずかしいままだけど、両親に"俺"を少しでも返す事につながるのなら、私は喜んで仮面を被って、可愛くあろうと思った。
次は化粧を教えてもらえることになって、その日はそれで解散。イヨさんに、車で家へと送ってもらった。
……そのままの格好で
……家のドアを開けたら、窓が割れるんじゃないかって位の、母さんの声が家中に響いた。
父さんは一瞬呆然としたあと……なんか「次の衣装は!?」ってノリノリになった。どうしてだろう。
とりあえず、慌てふためく二人を宥めて、なんとか落ち着かせて、最初に発した言葉は、

「母さん、メイクの落とし方、教えて…………」
……店員さんに好き放題されたメイクは、めちゃくちゃ重かった。次回が今から気が重い。
──でも、その仮面は本当に"俺"の為のもの?
この煩いくらいの鼓動の理由は、恥ずかしさだけなの?
