RECORD
観測地点、UFO招来その1
某所、某日
西の空に向かって太陽が傾いている。
気圧条件を確かめる。異常な数値というほどではない。
場所の条件を変更すれば誤差の範疇に収まるだろうか。
期待しているかと言われるとそうでもない。
案外落ち着いている。
後輩二人を適当に呼びつけたが実際に来るのかは怪しい所だ。
来なかった所で一人でもやるのだが。
適当に呼びつけられた内の一人。
「お疲れ様です」
「呼ぶんですか、UFO……。
万が一本当に来そうになったら逃げますからね」
来たら有意義過ぎてしまう。
まあ、来ないとは思うんだけど。
「呼ぶ。やり方はコバト来たら言うわ」
万が一があるか。
その可能性に賭けているが同時に微妙にも思っている。
「まあ適当にしとけよ、適当で良いよ」
「来そうになったら逃げるて、
逃げられると思ってるのか?お前」
「……うぇーい。 ウチが何だって?」
足音は、枯葉のそよぐ音と同じ程度の大きさだった。
空と液晶画面を交互に観続けた眼は、既に眠たげ。
「遅れてねっしょ?」なんて訊く言葉、罪の重さは載っていない。
気温、湿度、天気、場所、何れも変わり映えなし。
きっと、明日になれば忘れるくらいに退屈で。
1000年後には、痕も遺らない今日限り。
「来たか。」
女は神妙な顔で二人を見た。
湧水自然公園を訪れる人々は日頃通りを過ごしている。
夕刻の空には雲しか見えない。
強い風がやけに緊迫感を煽る。
「確からしいとされる手法は複数ある」
指を立てた。
「1.念じる。2.音を奏でる。3.呪文を唱える。4.踊る」
「最初からお前らが出来るとは期待しない。
期待を裏切られる事、それ自体は歓迎だが」
心理的ハードルが低い順の提案をした。
そのくらいなら前回も出来たはずだが、やらなかった。
念じる程度の心理的障壁すら越えられると思わなかったから。
条件は今回も整ってはいない。
そもそも、条件成立とは何かも不明。
この行為が結果を結ぶかという点すらも。
それでも女は貴方達に横暴に命令する。
「西の空を見て強く念じろ」
「ちょいちょい。 ちょいちょいちょ~い!
説明が雑いっての! 念じるって何を!? どうやって!?」
前髪をくしゃりとかき混ぜて、手指の隙間から見る西日。
次は何だ。 髪を整えて、靴でも脱いだら噺になるのか。
そもそも、こんな程度で来るんなら疾うに見つかってるだろ。
ぶつくさと、泥小石と同じかたちの不満を零しつつ。
「逃げます。逃げられなかったら諦めてキャトられます」
諦めが早い。
「西の空を見て強く念じる、ですか……」
どうでもいいけど、西の空は先日も聞いた様なワードだな……。
何があるんだ、西の空。
「UFO来い~~って念じれば良いんですか?」
デバイスの方位磁針アプリで、西を確かめている。
「生きてるんならアブダクションかもな」
細かい。
「念じる内容は好きに考えろ」
疑問に対しては答えにならない答えを返した。
「私が指示した通りに念じて、それが通るのなら
UFO招来の再現性を確かめられているはずだろ
「数打つんだよ。
何のためにお前らを呼んだと思ってる?」
「いえ、血をヂュッて抜かれます」
別に仕打ちを選べる訳ではない、多分……。
「成程、人海戦術ですか。
分かりました……」
「…………」
西の空の方を向いて、念じている。
そもそも来たら困るな〜と思っているので、念としては弱いかもしれない。
西の空を指さす。
空は次第に青黒く変化していく。
日が沈んでいく。
目を閉じた。
何を念じるのかは自由。
全員の念が揃うとしたら作為的な物か、或いは空前絶後の幸運か。
当然そんな奇跡は在りはしない。
数分が経つ。
女は目を閉じた。
「終わりで良いぞ」
「お前達が何を念じたかは聞かないが」
「今回は空ぶったな」
そう言いつつも声に落胆の色は無い。
日付、時刻、気圧、人数、場所、×印。
手帳にそれらを刻む。
「今回は千円札を人質にされたわけでもなし。
お前達の参加は自主的と考えても良いかもしれないが
次も来なかったら困るか。報酬を出してやる」
勝手にブツブツと呟いている。
誰も来ないかと思っていたのかもしれない。
「質問があればそれぞれ一つまで」
手帳に何らかを書き込む様子を眺めている。
この手帳いつも持ち歩いてるんだ。
「報酬出るんですか」
とはいえ、この先輩である。
パチスロの景品などを渡されても驚かないな……と失礼な事を考えた所で、質疑応答タイムを与えられた。
そう来たか。
以前のやりとりを思い出した。
そろそろ1週間経つ頃合いか、もう過ぎていたか。
「…………」
「どうして、こんな事をしてるんですか?」
物質的な物で払う方が確かだが、概念的な報酬を与える。
自分の言説が一定の価値を持つと考えているようでもあり、
即物的な報酬無しに貴方達が実験に付き合うか試すようでもある。
「覚えてたのかよ答えるって話」
笑い声を上げて女は答える。
「私は自分の世界の常識が壊れて欲しい。
科学的な証拠や理論は現代で一番堅固な常識だろ。
だから光速より速く・四次元軸で移動する物体が存在したり、
運に関する未知の裏理論が存在したり、その証拠を得たい」
「はい次」
同時に証拠を得たら科学的な証明が可能になり落胆するだろうとも。
未知の法則が誰かによって解体されだしたらやる気を無くすとも。
それは伏せた。
「……」
覚えてたのかよ、と言われて微妙な顔をした。
「別に。質問って言われて、今思い出したんです」
「そうですか」
それは、最後の抵抗ってやつですか。
という言葉はしまっておいた。
質問はひとつまでだから。
上町こばとは、彼女から静止の言葉が掛かる際には。
既に、充電の切れ掛けたスマートフォンに手を伸ばしていた。
今回で、得体の知れない彼女の、得体の知れない儀式も2度目。
そして、その意味不明の儀式は、至極当然の結果として空振り。
────“はふぅ”。
今の“私”の胸の内を、もしもこの茜一面に撒けることができたのなら。
その時はきっと、一足早い梅雨曇に染め上げてしまえるのだろう。
「……ムカつく」と。
故に、それはきっと。 あなたに聴こえるように零したのだ。
⇒
そもそもの話。
上町こばとは、戸羽巡という人間に対し、好意を抱いてはいない。
むしろ、軽蔑に近しいを感情を抱いている節すらあった。
出会い頭から、今の今正しくこのひと時に至る瞬間まで。
馬鹿にされている。 虚仮にされ続けている。
軽んじられ、良いように使われ続けている。
鳥羽巡の言がどうあれ、過程がどうあれ。
ただ彼女が自分に行ってきたことは、つまりはそういうこと。
『秘密ひとつ』。
畢竟、この言葉を吐くのが、戸羽巡というおんなの正体だ。
⇒
『──UFOを喚んでどうするんですか?』
『──常識を否定して、何だっていうんですか?』
『──宇宙人に遭ったとして、何を願うんですか?』
きっと、戸羽巡はこれらの問いに、然も解を与えるのだろう。
容易に想像できる表情。 容易に想像ができる声色。
立ち振る舞い。 言葉のトーン。 吐息の熱さ。
その全てが、怖気を震うほど容易に想像できる。
(…………あゝ)
何とも、容易に想像ができてしまえる程には。
私はもう、あなたの傍に、来てしまったのに。
⇒
下らない。
頭に浮かんでいた淫猥な探偵を、嘆息と束ねて吐き捨てた。
義理は果たした。 十全とは言えないが、最低限の役目は果たした筈。
“──私と、同じものを探していると思ったから”。
嗚呼上町こばと。 お前は何処まで浅ましく破廉恥なのか。
サタンというのはこうして遣ってくると識っていただろうに。
元は、他人だったのだ。 踊らされた自分が、きっと愚かだった。
物語上の前提として、上町こばとは、修道女である。
神の御名に於いて、尽くすべきを尽くすだけの人間である。
⇒
「──鳥羽先輩」
悪魔祓いには、銀の弾丸の一発がお約束。
問うのは、あなたの傲慢にではなく。
「あんたにとって、私たちって──何?」
私たちの、未来と、傲慢へ。 >>316067 >>
風は貴方の嘆息を聴覚まで運ぶ。
簡単な質問をするものだ、それで使い切って良いものか?
今日限りの気まぐれで、次の報酬は異なる物かもしれない。
気まぐれは訪れないかもしれない。
可能性は常に独立している。此処に集められたのは籤のようなこと。
クジ、猿にも富籤が買えたなら、猿もわが身を仕合せと思うだろうか。
「クク……っはは!」
哄笑、暫し。
軽蔑も、苛立ちも、期待も、感情の落差を感じられる機会でしかない。
期待する。期待外れ。そのどちらも望んでいる。
期待を裏切って、貴方が次に来なければそれもまた良しと哄笑する。
このように戸羽は他人を道具のようにぞんざいに扱っている。
機会があるなら貴方達でなくても良い。
協力者、共犯者、観測対象、後輩、そのどれも代替可能変数だ。
言葉少なに語る、必要十分を満たす答えがある。
「後輩K」
極めて簡潔な回答を返した。
解釈も講釈もそれ以上には不要。
「帰るか。次回は明日。同時刻」
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