RECORD

Eno.270 猫の記録

子猫或いは猫の記憶

これは誰かの過去であり、誰かの夢かもしれません。
ふわり、ゆらり。
視界が揺らぐ。

…。



ある”こねこ”は、両親からずっと愛されたいと思っていました。
いくら鳴いたって、両親が”こねこ”を見ることはありませんでした。
だから、”こねこ”は、おほしさまにねがおうとして、空に手を伸ばそうと。

たかいところから。

最後に見えたのは、おおきなまるいおつきさまでした。

ある"こねこ"は、居なくなってしまった"ねこ"たちから、目を背けるように、探しに行くように、家を飛び出しました。とても、さむい山道を駆けて駆けて。
知らない人ばかりの世界。頼る相手なんて居なくて、信じられるものが少なくて、街をさまよい続けました。


とある"ねこ"は、事件に巻き込まれてしまいました。
もう帰ることはできないのだと悟りました。残った"こねこ"が気がかりでしたが、帰ることも叶わずに、ふらふらと彷徨ったのでした。



…。

「私の過去というのは、まあ」



「人から見たら、漫画とかアニメであるような、悲しく暗い過去というものだろうな」



正直まあ、自分はそれを受け止めきれていないのかわからないけれど。イマイチ暗い過去という認識が出来ていない。そんな人生だった、というくらい。

引きずっていないか、と言われれば嘘になるが、家庭環境は当たり前と認識してしまっていたし、妹や姉も、行方不明という扱いになって、現実味がなくて。

だから、曖昧に生きていた。



『ねぇ、猫実さんちの家って唐猫様っていうのを祀っているんでしょう?』
『猫神憑きって噂だよ。だって事件に行方不明者に…そんな頻繁して起きるかね』

家庭環境だとか、事件だとか、そういうせいで様々な噂もありました。
それが神秘だとか、怪奇のものだとか。今では知りようもないかもしれないけれど。


…。

「そんな噂を知らずにいたのは、忽戸だけだった。なんてこと、今でも本人は知らないのだけど」



不意にそんな声が聞こえた気がして、白猫は顔を上げました。
けれど、そこには誰もいませんでした。

「こねこは、ねこは、とてもさびしかったのかも?」



「さびしいは、かなしいよ」



くるりと丸くなって目を閉じる。

人と食べるご飯もお菓子もとても美味しくて、
誰かの笑顔が嬉しくて。
いっしょに遊んでくれる方がいるってすごくうれしくて、
誰かが作ってくれるものってとってもおいしくて。

「このしあわせがずっとつづきますように」



どうか、自分が誰かのかこであるのなら。誰かの過去が救われますように。

それは、そうであってほしいと願われたからかもしれないし、自分の願いだからかもしれません。

理解者、になれるかはわからないけれど。
理解者でありたいと、白猫は思うのでした。