RECORD
Eno.413 御田ニコの記録
1年生のあきらと私
自室の本棚にある日記帳を手に取り、ペンを走らせる。
『水族館でふるるに過去のことを話した。
ほんとに今ではなんとも思ってない……なんともではないけど、昔のこと』
ペンが止まる。
本棚にある別の手帳に手を伸ばし、ぱらぱらっと開く。
そこには今まで撮ったプリクラの数々。
最初の1ページ目を開ける。1枚のプリクラだけがそのページに貼られている。
写っているのはウインクする自分ともう一人。
あきら。
あきらとの出会いは今でも思い返せる。
一年生春。
それはまだ、私が心の底から笑えていなかったころ。
それはまだ、あきらが今よりダウナーでキツい感じだったころ。
----―――――――――――――――――
高校受験の年、今の親に呉院学院を勧められた。
特に希望する高校なんてなかったから言われたまま呉院学院を受けた。
長年閉塞的な村の中で育ち、私の知識は村で学ぶことのできる程度のものしかなかった。
そんな私が高校に入れるのかと疑問に思ったけど……あっさり合格した。
春、桜咲く入学式。
体育館で慣例的な式を終えた。新入生は1年の教室に移動というアナウンスが流れた。
体育館から教室棟への移動には部室棟の前を通ることになる。
部室棟前では勧誘する在校生とされる新入生が行き交っていた。
「部活は……考えなくてもいっか」
特技という特技もない、なにかを始める度胸もない。
「私なんて」という自己肯定感の低さが【入部する】という選択肢を消していた。
勧誘を受けないように部室棟前をそろりそろりと通り……
「のわっ」
人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ」
と謝りかけるとその人は
![]()
とぶっきらぼうに言い、高等部の教室棟に入っていった。
これがあきらとのファーストコンタクトだった。
「こ、こわ~……」
怖かった。
。。。。。。
無愛想な子が入って数十秒後。
私も教室棟に入り、自分のクラスを見つける。
クラスの中では早速ともだちを作った人が談笑していた。
出遅れたかな、と横目で思いつつ自分の席に向かう。
席は窓際から2列目一番後ろの席だった。
ふと窓の方を見ると、隣の席にさっきの無愛想な子が座っていた。
隣だし見なかったことにするのもためらわれた。
意を決して話しかける。
「こ、こんにちは~よろしく~」
ひきつった笑顔。あの日からうまく笑えない。
![]()
クールな挨拶が返ってくる。
「私、御田ニコ。あなたは?」
笑顔で話し続ける。うまく笑えているだろうか。
![]()
……。
沈黙……話が続かない。
「そ、そういえばさ、」
話題をと思い、また話しかけようとすると
![]()
その子は私の言葉を遮るようにかぶせてきた。
やっぱり上手く笑えてなかった。
気持ち悪かっただろうか。ごめんね。
「あ、うん、ごめん」
もう話は終わりかな……。
私の高校スタートは失敗。と思った。
すると横で軽いため息と「また……」という小さな呟き。
![]()
「え?」
![]()
「あ、あぁ、えっと―――」
それからあきらはHRが始まるまで私の話に相槌を打ちながら付き合ってくれた。
これがあきらと友達になる馴れ初めだった。
。。。。。。
入学から一か月ほど経ったある日、放課後の教室であきらに私の過去を話す機会があった。
なんで話し始めたかは忘れてしまった。多分、なんてことない会話の中の出来事。
過去のことを一通り話し終えると、外は夕日で赤く染まっていた。
少し間が置かれたところで、あきらは一言
![]()
と言い放った。
そこから「そんな村でどんな遊びしてたの?」とか「どんな服きてたの?」
「ゲームは?」と質問をしてきた。
全然本筋と関係のない質問ばかりだ、と少し困惑した。
それでもあきらとの会話は楽しかったから、一つ一つ答えにして返していった。
そうしていると急にあきらが立ち上がり、笑顔で提案してきた。
![]()
外の夕日と同じぐらい眩しくて、きれいな笑顔。そう思った。
それからはすごかった。ゲームを覚え、ファッションを覚え、食べ歩きなんかも覚えた。
あきらがなにか思いつけば即実行して遊んだ。
なにかを覚えるたびにうまく笑えるようになっていったと思う。
髪も黒から金にした。
あきらが言うには私は明るい金髪の方が似合うとのことだった。
3月になろうとする頃には今と変わらず自然に、たくさん笑えるようになっていた。
―――――――――――――――――----
「都会を覚えるの楽しすぎてあっという間だったなぁ」
ほほえみがこぼれる。
あきらがどう思っているかは分からないけど、
私にとってあきらは友達で恩人でヒーロー。
あきらのようにきれいな笑顔ができているだろうか。
少しは恩を返せているだろうか。
私も誰かを笑顔にすることができるだろうか。
二人で撮ったプリを見返しながら、笑顔で想い出にふける。
fin.

illust:いも氏
『水族館でふるるに過去のことを話した。
ほんとに今ではなんとも思ってない……なんともではないけど、昔のこと』
ペンが止まる。
本棚にある別の手帳に手を伸ばし、ぱらぱらっと開く。
そこには今まで撮ったプリクラの数々。
最初の1ページ目を開ける。1枚のプリクラだけがそのページに貼られている。
写っているのはウインクする自分ともう一人。
あきら。
あきらとの出会いは今でも思い返せる。
一年生春。
それはまだ、私が心の底から笑えていなかったころ。
それはまだ、あきらが今よりダウナーでキツい感じだったころ。
----―――――――――――――――――
高校受験の年、今の親に呉院学院を勧められた。
特に希望する高校なんてなかったから言われたまま呉院学院を受けた。
長年閉塞的な村の中で育ち、私の知識は村で学ぶことのできる程度のものしかなかった。
そんな私が高校に入れるのかと疑問に思ったけど……あっさり合格した。
春、桜咲く入学式。
体育館で慣例的な式を終えた。新入生は1年の教室に移動というアナウンスが流れた。
体育館から教室棟への移動には部室棟の前を通ることになる。
部室棟前では勧誘する在校生とされる新入生が行き交っていた。
「部活は……考えなくてもいっか」
特技という特技もない、なにかを始める度胸もない。
「私なんて」という自己肯定感の低さが【入部する】という選択肢を消していた。
勧誘を受けないように部室棟前をそろりそろりと通り……
「のわっ」
人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ」
と謝りかけるとその人は
「ん?……あぁ」
とぶっきらぼうに言い、高等部の教室棟に入っていった。
これがあきらとのファーストコンタクトだった。
「こ、こわ~……」
怖かった。
。。。。。。
無愛想な子が入って数十秒後。
私も教室棟に入り、自分のクラスを見つける。
クラスの中では早速ともだちを作った人が談笑していた。
出遅れたかな、と横目で思いつつ自分の席に向かう。
席は窓際から2列目一番後ろの席だった。
ふと窓の方を見ると、隣の席にさっきの無愛想な子が座っていた。
隣だし見なかったことにするのもためらわれた。
意を決して話しかける。
「こ、こんにちは~よろしく~」
ひきつった笑顔。あの日からうまく笑えない。
「あぁ、うん、よろしく」
クールな挨拶が返ってくる。
「私、御田ニコ。あなたは?」
笑顔で話し続ける。うまく笑えているだろうか。
「……瞳」
……。
沈黙……話が続かない。
「そ、そういえばさ、」
話題をと思い、また話しかけようとすると
「無理して笑わなくていいよ」
その子は私の言葉を遮るようにかぶせてきた。
やっぱり上手く笑えてなかった。
気持ち悪かっただろうか。ごめんね。
「あ、うん、ごめん」
もう話は終わりかな……。
私の高校スタートは失敗。と思った。
すると横で軽いため息と「また……」という小さな呟き。
「……で?」
「え?」
「なんか喋りかけてたじゃん」
「あ、あぁ、えっと―――」
それからあきらはHRが始まるまで私の話に相槌を打ちながら付き合ってくれた。
これがあきらと友達になる馴れ初めだった。
。。。。。。
入学から一か月ほど経ったある日、放課後の教室であきらに私の過去を話す機会があった。
なんで話し始めたかは忘れてしまった。多分、なんてことない会話の中の出来事。
過去のことを一通り話し終えると、外は夕日で赤く染まっていた。
少し間が置かれたところで、あきらは一言
「むなくそ」
と言い放った。
そこから「そんな村でどんな遊びしてたの?」とか「どんな服きてたの?」
「ゲームは?」と質問をしてきた。
全然本筋と関係のない質問ばかりだ、と少し困惑した。
それでもあきらとの会話は楽しかったから、一つ一つ答えにして返していった。
そうしていると急にあきらが立ち上がり、笑顔で提案してきた。
「じゃあさ、あたしが都会を教えたげる。どう?」
外の夕日と同じぐらい眩しくて、きれいな笑顔。そう思った。
それからはすごかった。ゲームを覚え、ファッションを覚え、食べ歩きなんかも覚えた。
あきらがなにか思いつけば即実行して遊んだ。
なにかを覚えるたびにうまく笑えるようになっていったと思う。
髪も黒から金にした。
あきらが言うには私は明るい金髪の方が似合うとのことだった。
3月になろうとする頃には今と変わらず自然に、たくさん笑えるようになっていた。
―――――――――――――――――----
「都会を覚えるの楽しすぎてあっという間だったなぁ」
ほほえみがこぼれる。
あきらがどう思っているかは分からないけど、
私にとってあきらは友達で恩人でヒーロー。
あきらのようにきれいな笑顔ができているだろうか。
少しは恩を返せているだろうか。
私も誰かを笑顔にすることができるだろうか。
二人で撮ったプリを見返しながら、笑顔で想い出にふける。
fin.

illust:いも氏