RECORD
Eno.560 綴 椛の記録
![]()

得体の知れないものは怖い。危害を加えてくるものは怖い。
それ以上に霊が見えることが、神秘をこの手で消し去ることが恐ろしい。
おばけが見えるといえばおかしな目で見られる。
忙しい両親にまた心配をかけてしまう。
神秘が消える様は、どうしたってお兄ちゃんのことを思い出す。
お兄ちゃんもこんな風に消えたのか、なんて考えが脳裏をよぎる。
怪奇が退治される場に立ち会うだけで息が上がる。手が震えて、涙が滲む。
まるで自分のしたことを忘れるなと言われているかのよう。
言われずとも、忘れることなんて出来はしないのに。
だからおばけは怖い。戦うことだって怖い。
そんな自分に出来ることなんて、選ぶ余地はないに等しかった。
![]()

攻撃はしていない、味方の支援をしているだけだとごまかしたところで
結局、神秘を消す一助になっていることには変わりない。
自分の罪悪感を、恐怖を減らすための悪あがきにすぎないことはわかっていた。
それでも、そうでもしなければこの世界でやっていける気がしなかった。
![]()

消しゴムを取り出し、書いたばかりの一文を消す。
綺麗に消して、跡も残っていないそこに別の文字を書き連ねた。
![]()
椛より、と最後に添えてペンを置く。
宛先と日付の書かれた封筒に畳んだ便箋を入れ、貝殻のシールで封を留めた。
そうして丁寧にファイルに挟んで持ち帰り、他の手紙と同じ場所で鍵をかけて眠らせる。
誰にも読まれない手紙は、もう何通目になるのだろう。
五通目 ガイダンス
お兄ちゃんへ
裏世界の講義のガイダンスを聞いてきました。
トラバース論とか、てつ学とか、全部むずかしそうなことばっかり。
でも自分で自分を守れないと、もっと危ないんだって。
危ないのはいやだけど、戦うのも出来る気がしません。近くに行くのも怖いです。
他の人が戦ってるのも少しだけ見たけど、やっぱり現実じゃないみたいで。
でも、あれが出来るようにならないと、おそわれても何もできないんだよね。
それはもっと怖いです。

「……怖いよ」
得体の知れないものは怖い。危害を加えてくるものは怖い。
それ以上に霊が見えることが、神秘をこの手で消し去ることが恐ろしい。
おばけが見えるといえばおかしな目で見られる。
忙しい両親にまた心配をかけてしまう。
神秘が消える様は、どうしたってお兄ちゃんのことを思い出す。
お兄ちゃんもこんな風に消えたのか、なんて考えが脳裏をよぎる。
怪奇が退治される場に立ち会うだけで息が上がる。手が震えて、涙が滲む。
まるで自分のしたことを忘れるなと言われているかのよう。
言われずとも、忘れることなんて出来はしないのに。
だからおばけは怖い。戦うことだって怖い。
そんな自分に出来ることなんて、選ぶ余地はないに等しかった。
考えたけど、応急処置の実習を受けようと思います。
にげたりごまかしたりする方法も、出来そうだったらちょっとだけ。
先生たちが、一人じゃないって言ってくれたの。
裏世界で会った先ぱいも心配してくれて、うれしくて、少しだけほっとしました。
他の人の手伝いなら、私でも

「……ずるい、かな。
自分でやらないで、誰かにやってもらうの」
攻撃はしていない、味方の支援をしているだけだとごまかしたところで
結局、神秘を消す一助になっていることには変わりない。
自分の罪悪感を、恐怖を減らすための悪あがきにすぎないことはわかっていた。
それでも、そうでもしなければこの世界でやっていける気がしなかった。
他の人の手伝いなら、私でも出来るかもって。
裏世界が、お兄ちゃんの居場所になってくれたらよかったのに。

「……」
消しゴムを取り出し、書いたばかりの一文を消す。
綺麗に消して、跡も残っていないそこに別の文字を書き連ねた。
お母さんたちにも、お兄ちゃんにも心配かけないようにがんばるね。
それから今度、多摩科連でタマガイくんフェスタってお祭りがあるんです。
学校にもポスターがはってあって、おさんぽくらぶの人にもさそってもらったから行ってきます。
オリジナルフードとかおみこしとか、いろいろあるらしくて楽しみです。
お兄ちゃんにもお土産が買えたらいいな。
椛より、と最後に添えてペンを置く。
宛先と日付の書かれた封筒に畳んだ便箋を入れ、貝殻のシールで封を留めた。
そうして丁寧にファイルに挟んで持ち帰り、他の手紙と同じ場所で鍵をかけて眠らせる。
誰にも読まれない手紙は、もう何通目になるのだろう。