RECORD

Eno.176 都筑 明日汰の記録

1.拝啓、いつかの明日へ

空を自由に飛べるような未来。
時間の流れさえも飛び越えていけるような未来。
そんな『未来』を、一度は夢見たことがある筈だ。きっと、あんたも。

なあ、あんたはまだ、そんな明日を信じてるか?
俺は信じてる。たとえ、誰に笑われたって。

――だからこれは、誰もが一度は描いた夢の話。
そして俺にとってはいつか必ず踏み締める筈の到達点。

それが俺の、『未来発明』テルミナス・マキナだ。

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俺様は都筑ツヅク 明日汰アスタ
この春から多摩高専に通い始めた技術者の卵にして、いつか時代を変える未完の発明王だ。
俺だけの『未来発明』を実現する為に試行錯誤を重ねる日々――。
そんなある日、俺の世界はいとも簡単にひっくり返ってしまった。

「くくく……はーっはっはっはっは! ついに、ついに――俺様は自由だ!
 さあ、週末は存分に新パーツを試すぞ!!」



いつも通り、学校帰りのバイトを終えてクタクタになりながらも漸く帰宅した俺は、意気揚々と自室の扉を開け放つ。
普段以上に高揚しているのは訳があった。つい昨日、念願叶って入手困難だったパーツ、その最後の在庫を滑り込みで手に入れられたからだ。
これは自分史上最高かつ最強に“流れ”が来ていると言って差し支えないだろう。身体も自然と喜びの舞を踊り出してしまうくらいに。
軽快なステップからターンを決めたところで、俺の右手は引き出しの一番下の取っ手に伸びる。
中に仕舞った至宝を取り出す為に、がらがらと勢いよくその中身を引き出した。
だが。

「――なんだよ、これ……」



そこにあったのは、見覚えのないパッケージに包まれた、どこか近未来的なデザインのプリン。
妙に光沢のあるラベルには、あり得ない日付が記されていた。
『消費期限:2048年5月10日』

「……………未来?」



一瞬、フリーズする思考。
数秒の間をおいて、やっと現実が追いついてくる。

「じゃ、なくて! 俺様のパーツ! 俺様の先月のバイト代ッ!! 一体、何処に行ったんだよぉ!!」


声を荒げながらも、脳裏を過ったのはひとつの可能性。

――この机の引き出しが、時を越えてしまったのではないか、と。

信じられるはずがない。だけど胸が高鳴るのを止められなかった。
俺は子供の頃からずっと、そんな夢みたいなことを――心のどこかで信じてたからだ。

それは、『未来と繋がる引き出し』という未だ実在し得ない神秘に、俺が初めて出会った瞬間だった。

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それからの俺は、まるで取り憑かれたかのように、毎日机の引き出しを開けては覗くようになっていた。

最初のうちは、消費期限がずっと先の日付を示しているスイーツやスナック菓子ばかりが入っていた。
だけど俺は、それが確かに未来からの何かのコンタクトなのだと信じた。
変化がない日もあった。そんな時は、お供えのつもりでなけなしのグミを入れてみた。
すると翌日にはそれが消えていて、代わりに別の何かが入っている――そうしたやり取りが続いていた。

そんな日々が何日か続いたある夜。

引き出しの奥に、見覚えのない金属の塊が転がっていた。
焦げ跡のような傷に、ひしゃげたボルト。
それは見るからに使い物にならない、ジャンクパーツだった。

パーツを見た瞬間、頭の奥で何かが弾けるような衝撃が走った。
それは、ただの既視感じゃない。設計図を描いていた自分の記憶と、目の前の現物がリンクした確信だった。

「――この構造、まさか……アームユニットの関節部!?」



間違いない。こいつは俺が今まさに設計中だったロボタの腕部パーツの機構に酷似している。
正確には、俺が一度『理論上は実現不可能』だと諦めかけた構造そのものだが。
それが、いとも呆気なく形になっていた。

そして、添えられていた紙切れにはこう書かれていた。

『おやつ泥棒へ。パーツは代金代わりに貰っておく。もうおやつは入れない。今日からコレはジャンクヤードだ』

――いや、誰だよ!!

人をおやつ泥棒扱いする、見知らぬ紙切れの主に思いを馳せながら――尚も俺は興奮を抑えきれなかった。
こんな発想、少なくとも今の俺には到底思いつかない。
なのにそれは今、手元にあった。

「ジャンクヤード……。これがジャンクとは、未来人め……なんて見る目の無いヤツだ」


まるで試されているような気がした。
これこそが、俺が『未来と繋がる引き出し』に出会った意味なのではないかと。

「見てろよ、必ず修理してやる。
 それでもって、俺様の夢――『未来発明』テルミナス・マキナ第一号、今度こそ完成させてやるからな!」


その夜、俺は眠らなかった。

錆びた関節を分解し、寸法を測り、構造を解析し、そして――自分の知識と想像力の全てを詰め込んで再設計を始めた。
たとえ一晩で直る代物じゃないとしても、これはただの修理じゃない。

これは俺の――偉大なる天才発明家、都筑 明日汰の歩む、未来への第一歩なんだ。