RECORD
観測地点、UFO招来その4
某日、同時刻
――前回の実行から翌日、同時刻。
西の空に向かって太陽が傾いている。
気圧条件を確かめる。晴れ模様の高気圧、気圧差による頭痛。
地面に描いた陣は既に消え、僅かな土の盛り上がりが痕跡を残すのみ。
結果への期待そのものは最早無い。
継続的な物事には始点があるし終点もある。
これは一つの儀式の些細な終点。
高く積み上げたドミノを一手で崩すそれ。
後輩?呼んでも良いが来るか試しても良い。
来なかった所で一人でもやる。
「こんばんは」
黄昏時、自分は矢張りそこを訪れた。
いつも通り、大した理由も無く。
最終回である。
どうでもいいけど。
漠然と来ているだけだ。始まりも無ければ終わりも無い。
「来たか」
いつも通りに振り返った。
夕方のチャイムが鳴り、子供は捌けていく。
騒々しい公園が少しだけ静かになる。
「踊りは好きなものでいい。
予想していたかもしれないが」
まだ全員揃いもしない内から説明する。
この実験は常に自分勝手に行われている。
「好きなもの……」
まあ、指定があるなら覚えて来いって言うだろうし。
言われなかったという事はそうなんだろうけど。
「そう言われると困りますね」
好きな踊りって何だよ。
「じゃあお前はラジオ体操してろよ」
誰でも出来る簡単な踊りを提案した。
踊りというよりは……体操なのだが……
大真面目に呪文を唱えながらラジオ体操する姿は
まあまあ滑稽に映るかもしれない。
「ラジオ体操で良いならそれで行きますけど」
良いんだ。
ラジオ体操なら公園でやっても不自然じゃない範囲かもしれない。
偶にやってるお爺さん居るし。
時間帯はともかく……。
「あ~ラジオ体操第4ですか。分かりますよ、勿論……」
「出来る訳ねえだろ」
ちょっと人間離れする必要がありそうですね。
「じゃウチは “終” ってテロップの役やる」
しれーっと混ざる。 ギャルコミュ力しぐさだ。
何の話かはサッパリ掴めないが、ラジオ体操第四は知っていた。
「つか、UFOと何の関係があんだよ。 ラジオ体操第四」
まさか……踊るのか? だとしたら終ですよ終。
「踊りは古来より色々な儀式や表現に使われる。
神への祈り、豊穣、儀式、抵抗、自己表現」
「私はUFOを呼ぶためにそうする。
どの踊りが適切かどうかはわからない。
そもそも前例があるとしてもそれが真実かもわからない」
「なのでお前達の自由意志に任せる」
「コバトはテロップ担当な」
「やるか」
言いつつ録音していた音楽を流し始める。
どう考えてもラジオ体操の曲ではない。
奇怪な音程のホイッスルの音。
「ンだよテロップ担当って。 意味わからんが」
上町こばとには、ホイッスルに付けるテロップが分からぬ。
上町こばとは、ただの一介の信奉者である。
聖書を読み、聖歌を歌って暮らしてきた。
けれどもノリに対しては、人一倍に敏感であった。
OK、G○○gle、翻訳開いて。
“एक दो तीन चार पॉंच छः सात आठ नौ दस ग्यारह बारह तेरह”
液晶画面に浮かぶ謎の歌詞。
いったいこれをどうしろというのか。
「何だこの曲」
どう考えてもラジオ体操の曲じゃない。
著作権に配慮されているね――。
「テロップ担当頑張ってください」
「ベントラ ベントラ スペースピープル」
どうでも良い呪文が唱えられる。
どうでも良い踊りが踊られる。
どうでも良い思念を宙に向ける。
これで何か起きるのか?起きたら面白い。
起きなかったら?それでも面白い。
期待を裏切られることは好きだ。
期待を裏切られるときの落差は色々な物を実感させてくれる。
期待通りではつまらない。
期待通りの物事は大抵、既知のことだから。
戸羽廻は何でも面白がる。
それは面白い以外で感情表現することを放棄しているから。
だからこれも面白いと単純化するのだろう。
「ディス イズ キタマシティ」
正しいのかもわからない変な音楽。
後輩の流すヒンドゥー語だかサンスクリット語だかのテロップ。
ラジオ体操第四ではあるが無理のある変な踊り。
これが効果を持つとは思わない。念も意味がないかもしれない。
足下の陣を靴で消す。
出鱈目だ。折角人を呼んだのに台無しにしている。
そこで戸羽は真剣に念じた。
西の空に。
「アポクアウクトッペ」
弱々しい念。
意味の分からない呪文。
古びたカスタネット。
在り来たりな踊り。
無関心な念を送る。
無価値な呪文を唱える。
無意味な音を鳴らす。
無意義なダンスを踊る。
暇潰しだ。
死ぬ迄の時間を、徒に浪費している。
こんな事に何の意味も無い。
西日を浴びて笑う戸羽先輩が眩しい。
若し、本当にUFOが来てしまったら、あの人はどうするのかな。
どうでもいいけど。
音も異様も消え失せてみれば、春の夕焼け鮮やかに。
そぞろ帰り出す学童ら。笑っているのかカラスの声。
充電が切れかけたスマートフォンを、ポシェットに押し込んだ。
「勝手に仕切んなっての」
的外れな儀式の終わりと。
影踏み歩き出す、革靴の足音。
















