RECORD

Eno.450 百鬼 舞の記録

プロローグ② 夢の中で、ひとしずくの温もり

その日は、灰色の空から氷の雨が静かに降り注いでいた。式場は重苦しい空気に包まれ、誰もが言葉を失ったまま哀悼の意を示している。
葬儀に参列する親族の中、舞は小さく佇んでいた。

舞「お母さん…。」

まだ14の少女は、母親を失う準備などできているはずもなく。ただただ自分の心に開いた穴を虚に眺めていた。


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葬儀が無事に終わると、舞はすぐ横になった。
心身ともに弱っていたのだ。

舞は、夢を見た。
夢の中の舞は、柔らかな月の光に導かれるように、ひっそりとした幻想的な庭園へと足を踏み入れる。紺碧の宇宙に浮かぶ幾千の星々、左右の微風に揺れる松や笹の音、石畳に映る石灯籠の優しい光。そのすべてが調和した、静謐な和風の庭園だ。

庭園を進むと、石畳の道の奥にひっそりと佇む東屋が姿を現す。中では麗しい深緑の髪の女性が星を眺めていた。優雅さと包容力を併せ持つ深緑の髪。大人びた、だが優しげな紫の瞳。黒と白を基調とした上品な服。舞の持つ人形にも劣らない麗しさ。

舞は、その素敵な女性、依緒の隣の椅子の腰掛けて、星を眺めた。

依緒「ねえ、星を見るのは好き?」
依緒が話しかける。

舞「…あ、はい、そうです。」

依緒「わたしも好き。心が落ち着くから。」
依緒は優しく微笑む。

依緒「いきなり話しかけてごめんね?
あなた、とっても辛そうな瞳をしてたから。」

心が、少しドキドキした。

依緒「もしよかったら、お姉ちゃんにちょっと話してみない?ほら、口にしてみると辛さが和らぐでしょう?」

舞に優しげな視線を投げかける。

舞「実は…」
どうせ夢だ。話しても誰かに知られる訳じゃない。舞は母親が任務で死んだこと。そして母親と死ぬ前に『お母さんなんて、いなくなればいいのに』と言ってしまったこと。そしてそれを強く悔やんでいることを話していく。話している間に涙で視界がぼやけるのを感じた。
そんな舞の話を、依緒はそっと優しく肩や背中を揺すりながら聴いていた。

依緒「そう、辛かったよね。
あなたがどれだけ辛くても私はここにいるから。どうかひとりで泣かないで。」

依緒は舞を優しく抱きしめる。
心にぽっかり開いた穴が愛で満たされる気がした。

それから、二人は秘密の庭園で毎晩会うようになった。舞の就寝時間が早まったのは言うまでもない。