RECORD

Eno.392 悪喰 白の記録

記憶の断片その4

取り留めのない言葉を送られていた。

聞きたくもない。外の世界など知りたくもない。もう出る必要もないし、出る気もない、のに。

ここから動けないから。ずっと言葉を送られ続けていた。日にちの感覚は覚えてはいないけど、きっと凄く遅く、感覚の空いた、そんな緩慢なものだったけど。

取り留めのない言葉は尽きなかった。

彼はそこに居た。そこから言葉を投げた。一切離れることはなかった。

彼は"道"があることを示したけど、"道"そのものを示すことはしなかった。

ただそこに居て、言葉を投げるだけ。

ボクは―――何も言わなかった。ただそこに居た。ここしか居場所がないと思っていた。いや、そんなことすら思っていなかった。

何も考えていなかった。ただ言葉を煩わしく―――そして恐ろしく考えていた。

だから何もしない。話しかけることも、出ていくことも、死ぬことも―――生きることも。

でも―――言葉は沁みていたのかも。

"なんで"
"はなしかけるの"

言葉が漏れた気がした。

「―――ここがお前の埋もれる場所じゃないと思ったからだ」
「―――これが"人"の生き方じゃないと思ったから」
「―――お前がその姿でいるのが、どうしても耐えられないから」

「ワタシの罪がお前に注がれたのが我慢ならなかった」
「だからワタシはお前という石に釘を打ち続けることにした」

「だが―――ワタシはお前と違い恐れてはいない。ワタシはお前を知っているからな」
「だから―――お前にもワタシを知って欲しかった。それだけだ」


"……"

その言葉の意味を分かったわけではなかったけど。だって、その時は言葉とか……ほとんど忘れていたから。

怖がることはないんじゃないかって、思い始めた。

なんでそう思ったのかも―――分からなかったけど。
今なら。

「安心しろ。どこかへ行けなどと言うつもりはない」
「ただ、お前を見ていてやる」



―――ボクを見つけてくれた気がしたから。