RECORD
"叛逆者"
王子に連れ去られて襲われた後、奴の機嫌を損ねたせいで家族を連れてこられた。
私は奴に首輪を付けられ家族の前に晒され、身動きが取れず眺めることしか出来ない状態だった。
眼の前で行われたのは、姫と呼ばれる王子の親衛隊による惨たらしいショーだった。
姫を倒せば私を返す、という無理難題を突きつけて……父と母が、異能で殺された。
残された妹は……ツバキは、眼の前で辱められてから殺された。
人の尊厳も何もかもを踏みにじられ、使い捨てのおもちゃのように遊ばれて。
王子は、その様子を笑って見ていた。
……それから、私が責め苦に大した反応を返さなくなった頃合いで『飽きた』と言って解放された。
奴に連れ去られてから半年ほどが経っていた。
何故殺さなかったのかと思ったが、私一人ではどうすることも出来ないと思われたのだろう。
悔しかった。悲しかった。憎かった。
全てを奪われて何も出来なかった自分が、嫌だった。
その憎悪が、その後悔が、私の奥底に眠るものを呼び起こしたのかは知らないが。
私は『万物の反転』の力を手に入れた。
……これが、私が復讐者になった経緯。
王を殺す"叛逆者"として刀を振るうようになった理由。
人を殺しても何も感じなくなるまで、そう時間は掛からなかった。
……誠に、その事を軽く話した。
彼は殺戮を楽しむタイプだが、表でその本性を必死に抑えている。
自分の罪を理解し、苦しみながらも良い人間であろうと努力を続けている。
慣れてしまった私とは大違いで、命の重みを理解している人だ。
正直、怖がられるかもと思った。
距離を置かれてもおかしくないと思ったし、見る目が変わってしまうとも思った。
けれど、殺しの反動で苦しむ彼を放っておけなくて……話の流れで、話してしまった。
>>1289449
「―― は、」
ぶわりと。
もしも自分が本当に狼だったならば。きっと毛が逆立った。
獣らしい唸り声が上がっていたかもしれない。
そうならなかったのは。人である証で。
穏やかなブラウンが、見開かれていた。
「違う世界の……出身?」
「それで……権力者に好き勝手されて。
復讐のために生きて、人を殺して……?」
困惑した声が零れ落ちる。
震えた声はいつも通りではない。
分かりやすく、動揺している。
一言一句聞いていた。
あなたの独白から、音の一つたりとも取りこぼさなかった。
何一つ欠かすことなく全てを頭に叩き込んで。
息が乱れて、詰まって。
瞳に透明が溢れて、零れそうになった。
→
>>1289449
そうして。
次には、行動を起こしていた。
抑えられなかった。
跳ねるようにして身を起こせば。
あなたに腕を回し、叫んだ。
→
しかし彼は、自分の苦しみなんかよりも私の方を優先してくれた。
>>1289449
「っ、なんで!!」
「何でアヤメがそんな目に
遭わなきゃいけなかったんだよ!!」
「何でこうなるまで
アヤメが戦わなきゃいけなかったんだよ!!」
「……なんで、」
「…………なんで、そんな……」
「苦しいことを……ずっと、抱えて……」
「教えてくれなかったんだよ…………」
強く強く、抱き締めて。
最後には、縋るような声へと成り下がっていった。
想像もできないような惨い過去を送ってきたのだろう。
現代においては体験することもできないような、壮絶な物語があったのだろう。
こちらに来てから、人の悩みを何度か聞いた。
元々人当たりは良かったから、昔から相談役になることも多かった。
大変だな、と。それ以上突き動かされることはなかった。
けれど、この話は。
そんな陳腐な感情では片付けられなかった。
彼が立ち上がり、私を強く抱きしめて。
大声で怒りを代弁してくれて、泣いてくれて、不条理を嘆いてくれて。
────嬉しかった。
……彼の苦痛を和らげたかっただけなのに、逆に彼に慰めてもらう形になってしまったけれど。
彼が私から離れる頃には、互いに泣き腫らしていたけど落ち着いていた。
複雑な気持ちも無くはないけれど、結果的には打ち明けて良かったのかもしれない。
>>1293628
あなたと自分は、何かと価値観が似てきた。
ここで、明白な違いがあることを知った。
自分は命を奪うことが楽しい一方で、その狂暴性に恐怖を感じている。
あなたは命を奪うことを楽しまない一方で、慣れてしまっている。
0と1の差は大きい。
月影誠は寸前で人殺しにはならなかった。
だからこそ、殺すという行為に快楽を覚え……同時に、強い抵抗もある。
あなたのようになれれば。
慣れてしまえたならば。
きっと……もっと、楽に生きられたのだろうな、と思う。
「……もしもいつか」
「復讐のために、お前は元の世界に戻るのかな」
復讐を否定しない。人を殺してきたことも。
それらに対する恐怖は一切ない。
元の世界にいつか戻り、それを果たすことも。
離別を惜しむくらいで。それを望むならば後押しできる。
あなたを案じるならば、その後のお話。
それだけのために生きてきたあなたは。
復讐を果たしてしまったその先は、何を理由に生きるのだろう。
「……そしたらさ」
「いつかまた、ここに戻ってきておいでよ。
そのときは絶対に歓迎するよ」
「大丈夫」
「どこに居ても、どんなところで迷っても」
「―― 俺は必ず、アヤメを見つけ出すよ」
送り犬は、迷い人を導き正しき場所へと返す怪異で。
ちょっと特別な俺達は。世界の境界線を越えても見つけ出すよ。
そう約束して。あなたから離れた。
誠は私の復讐を止めることはなかった。
それどころか、全てを終えたら戻ってきて良いとまで言ってくれた。
……故郷に戻って復讐を果たしても、確かに王殺しの犯罪者として追われ続けるだろう。
この地で生きて良いのなら……全てが終わった後、この世界に身を置く事も良いのかもしれない。
その時、彼は隣に居てくれるのだろうか。
……そうだったら、嬉しいな。



