RECORD

Eno.77 磯向井 利慕の記録

❖回想録


「短いあいだでしたが、みなさんありがとうございました」


 一年以上同じ場所に住めたのは、ここ最近の話である。
 それまでずっと、ずっと。それこそ1ヶ月そこらで家を出る事もあった。
 母はいつも辛そうで、何かから逃げていて。
 口癖の様に「ごめんね」を繰り返す。

「母さん。これ……やっぱり、すてないとダメ?」


「いやだよ、すてるの」



「ごめんね、リシタ」


「持っていけないの」


 引っ越す時に持っていくのは、常に最小限の荷物しか許されなかった。
 お別れ会で貰った色紙など、即座にゴミ行き。

 服を鞄に詰めて、ランドセルに入れられるだけの私物を入れる。
 筆箱、お道具箱、習字セット、水筒ーー 学校に必要な物を入れるだけでもいっぱいになるけど、どうしても捨てられない物を入れる。

 いつ父親が作ったかも分からない、手作りのラジオと。


 何度も荒々しく扱ったものだから、部品をいくつか失くした軍艦の模型。


 父親の写真は、どこかに置き忘れてしまった。
 母も持ってはいないだろう。
 だから、父親の名前が入ったこの二つだけでもと、大事にしていた。
 母が父親の名前を見ると、とても苦しそうにするから、いつもこっそり持っていた。

 墓参りにも、行ったことがない。
 もっとも、その墓石の下に父親の骨は埋まってないのだろうけど。


「いしが りした です」


「みなさん、よろしくおねがいします」