RECORD

Eno.32 不藤識の記録

monologue. 『落』

 夏は嫌いだ。
 暑くなりゆく日々を想う度、脳裏に過ぎる光景がある。


 ふと自分の手を触っても、その温かさは感じない。
 だが、他人が触れた時には「温かい」と言われることが多い。

 平熱37.1度。体温が平均よりは少し高いこの身体は、少々病に強く頑丈だ。
 運動、睡眠、食事。この三種を欠かさないことを何度も刷り込まれていたからこそなのだろうか。

 その原因たる従姉は、不藤識を相手に一度たりとも満足する気配が無かったが。
 夏が近づき、実家に帰らなければならないとなれば、必然的に彼女と顔を合わせる可能性も高くなる。
 常にスパルタ指導で此方を痛めつけてくる彼女には、しかしどうしても頭が上がらない。毎年の盆の恒例行事。

 初めて会った日から数えて3日だったか。
 彼女が自分の手に触れた時、なんと言ったかをよく覚えている。

「よく燃えそうだね」

 何を言っているのか、その瞬間ばかりは脳が理解を拒んだ。何かの冗談だと思いたかったが、その直後の行動で正気を疑わざるを得なかった。
 結局、自分は化かされただけだったのだけど。

 早く秋が来ないだろうか。食の豊かな秋、残暑に気をつけねばならないが、環境豊かな季節だろう。楽しみも多い。
 冬のなんと素晴らしいことか。あんなにも太陽が早く沈む季節は大歓迎だ。何よりも、鍋が美味しく食べれるのが嬉しい。
 特に冬至は好きだ。身体の調子が年で一番良くなる。素晴らしい日だ。

 対する盆は先述した通りだから、考えるのも億劫だ。
 夏至は一年で一番具合の悪くなる日で、外に出ようものなら気が沈む。

 やっぱり、夏は嫌いだ。