RECORD

Eno.205 穏岐 穏凪の記録

メモ書き13

生来から私の火種は自身に合った。

死に対する感情が、重く軽くなった辺りではもうすでに…火種に対する負の感情は、平穏を奪う憂鬱の対象でしかなくなっていた。


未知に対する恐怖、変動への畏れ、喪失の逃避。

人は皆、そうした不安を宿して生きている。


私はこの狂った世界で生き、目的を叶えて朽ち果てる為に、その恐怖を呑み干した。


その感情を識り、明確なリアリティとして感じる為に自身自体を呑むことはなかったものの、いつしかそれは、私自身を縛る事は一切なくなった。

不安と恐怖を抱かぬ人間などいはせず、それはただの破綻した人外に過ぎない。

故に、恐怖を感じる事自体は未だできる私は、まだ人であろうか。


然し、そうして恐れを呑み干したからこそ、見えるものがある。

それは、他者と私は、明確に違うという事だ。



人は皆不安を抱え、それは今の私でも違わない。

だが、不安と恐怖を根源として行動する彼らと比べれば、私は人としての「何か」が僅かに欠け落ちてしまっていたようだ。

最近出逢った、栞を挟んだ顔見知り達がもし目の前で死に果てても、私はきっと悲しむのではなく、目覚めが悪いとしか思えないのだろう。


それを、少し残念だとは思う。
私にとっての世界は全て『穏岐穏凪』に定義されたものであり、他者を真に理解する事も、理解される事もないにも等しいのだから。

しかし、それはそれで、これはこれでしかない。


皆が恐らく持つであろう、不安と恐怖の過去の根源など私には存在せず。

きっと、私はどうしようもなく恵まれた存在だ。

恐怖を飲み干しただけの一般人として、ただ、それを活かして、静かに生きてゆきたいと思う。































「結局…私達は、見えるものしか見えない」



「悪だの正義だの、馬鹿馬鹿しい。
それを定義するのは、その世界を見る人しかいないからな」



「ただ…これは『悪』だ、これは『正義』だ、あなたを理解している、あなたを知っている。
それもまた、ただ他者の世界の殻擬きを借りているに過ぎない」



「大切なのは、自身の答え。
自身の世界で、自分自身が定義したもの。
ありとあらゆるものは、世界を見つめる者が孤独で定義しなくてはいけないのだから」