RECORD

Eno.139 浮季草 斂華の記録

可愛くなる化粧、ってなんだろう

「……駄目だぁ」



 一通りの作業を終えて──ここで作業と言ってしまうのが、もう結果を明らかにしているような物だけれど──鏡を見る。
 一目見て失敗だと分かる。
 陶器のように白くしろ、などと書いてあったメイク指南で下地を白くしてみるも、地肌の色と乖離しすぎて違和感が凄い。
 アイラインは太くなりすぎて変な形になっているし、アイシャドウは主張をしすぎて下地と合わせてゾンビの様に見えている。
 眉マニキュアはインナーカラーと合わせて目立たなくなる……と見せかけて、化粧で暗めになった瞼周りで異質な存在感を表している。
 馴染む色、ということで買ったはずのリップすら、悪目立ちして仕方がない。

 これが未熟からくるのか、それとも感性からくるのかは……恐らく前者の比重が高いとは思うけれど。
 イヨさんに色々と揃えてもらったけれど、実際のところ、化粧という物は調整なのだと知った。
 自分の顔をベースに、整えた形に持っていく技術。そこに正解が無い、というのが難しく感じる原因なんだと思う。

 美醜の基準は時代で異なる。私ですら、平安貴族は目が小さく、真っ白な白粉肌が良かったのだと知っている。
 整えるのは、まあ分かる。
 人は、他と極端に異なる異物感を忌避する物だし、整っていない事は”異常”を知らせる物だ。
 目を大きく見せる、というのもまあ分かる。
 動物の子どもが可愛く見えるのは、顔に占める目の大きさが大人より広く、庇護欲を感じさせるからだ。

 じゃあ、調整以上の可愛い、ってなんだろう?

 皆、自分なりの可愛いを持っている。
 私だって可愛いと感じることもある。誰かの顔や、メイク、──この前された自分の顔だってそう感じた。

 でも、"私"の可愛い、って、なんだろう。
 私は、何を可愛いと思うのだろう。
 顔が同じ筈の"俺"だった"斂華"は、どう着飾りたかったんだろう。
 もしかしたら、同じ悩みを抱えたのかもしれないけれど。

 洗面台に落とした視線の先には、方針が定まらない行く先を示すかの様に、メイクを落としたお湯が濁っていた。