RECORD

Eno.662 辰森 ユキの記録

ある日の通話2

「方針変更って、急にどういう事ですか?」



声に籠もった怒気が室温を数度下げた。
通話の相手は辰森コウの上司。即ち機関の中でもそこそこの位の者である。
その内容は先ほど彼女の手元に届いた通達についての抗議であった。

通達内容は、辰森ユキと同種と考えられる生物の住む異界とコンタクトが取れたこと。
最終的な意思決定はユキに任せるものの、そちらの世界へ還す可能性があること。
その前段階として、伏せていた事実を本人に伝えること。
それらが記されていた。

「漸く、人間社会に慣れてきた所なんですよ?それを今更……!」



電話の向こうではひたすら謝り倒しているようだ。窓に付き始めた霜がその白さをやや緩める。
勿論、向こうの一存で決まるような話ではない。それなりの検討は重ねられたはずだ。
しかしそれを理解した所で怒りが収まる訳ではなく、ただ遣り場を失っていくだけ。

「それは……本当の居場所があるなら、その方があの子にとっても幸せ、なのかも……知れませんが」



“幸せ”を持ち出されると話は拗れる。
同種の存在が居る世界があって、そこが彼女を受け入れてくれるのならば、それは幸せなのか?
同種でありながら相争う人間という存在が、それを大いに肯定しづらくしている要因だ。
……現に、慣れてはいても馴染んでいるかは別の話。たとえ新しい場所へ移ったとしても、二の舞いとなるだけではないか?

「はぁ……分かりました。元より私に上の決定に逆らう権限はありませんので。では、失礼致しました」



溜息一つ、通話を切る。
衝動的にスマートフォンを何処かへ投げてしまいたくなったが、ぐっと踏みとどまった。
冷静さを欠いてはいけない。

大体、ユキと同種らしい存在の住む異界とコンタクトが取れたなどと、出来すぎた話ではないか?
これがいつ頃立ち上がった話かは分からないが、少なくとも5年前まで全く接触の無かった種だ。
どちらからどの様に探し当てたのか、そしてどうやって話をまとめたのか……
両親は健在なのか、皆同じ様に人型をしているのか、どの程度の文明レベルなのか……

疑問は尽きないが、目下対応すべきは……

「さて、どう伝えたものか……」