RECORD

Eno.346 海狛 呪理の記録

人魚姫

それはアタシが初めて読んだ本。
アタシ自身にもっともいろんな意味で影響を与えた物語。

どうしようもない話なのに。
何も得られなかった哀しき者のお話なのに。
何故だかひどく惹かれてしまって。よく読んでいた。


なんで惹かれたんだろう?


ヒトならざる者が声を代償にヒトに成ったコト?
ああ、羨ましかった。自分もそうなれるだろうか、なんて何度も何度も考えたっけ。目でも腕でも足でも手でも、一つを失うだけでそう成れる魔法があるならってどれだけ幸せだろうって希望を与えてくれた。

叶わない恋をしたコト?
化け物がヒトに恋をして、追いかけて、恋破れた。化け物なんだからそりゃ当然。身体だけヒトに成ったってその根本が変わってなきゃ、恋が叶うはずないんだから。そうやって諦めることの大切さを教えてくれた。

最期があんまりにも悲しかったコト?
たしかにあの終わりは悲しかった。でも、それでも…綺麗だなって思った。化物にしてはあまりに美しい散り際だった。自分も終わる時そう成れたら、どれだけ幸せだろうって。アタシに夢を与えてくれた。


考えてみると、人魚姫がアタシに与えたものは思ったよりも多いらしい。
いや…もしかすると髪に宿った人魚に引っ張られているだけかも。そうなんだとしたら少しだけ嫌だ。


でも、さ。
仮にアタシが人魚姫という形に成れたなら。



ヒトに憧れて、恋をして、ヒトに成って、恋破れて、そして​───










​─​──綺麗な泡になって、消えてしまいたいな。その終わりは、きっと美しいから。