RECORD

Eno.208 水宮 一依の記録

回顧録 -邂逅-

───運命だと思った。

満開を過ぎた桜が散り、葉桜が萌えいづる頃。
私は新入生として双百合女学院の構内を歩いていた。

新入生とはいえ、高校卒業から2年間巫女として務めていた私は、同学年の人達よりも少し年上になる。
うまく馴染めるだろうか。
浪人と揶揄われはしないだろうか。
小さな不安を抱えながら歩いていたその時、ふと目に入ったのは、風に揺れる淡い桜色だった。

その瞬間───ドクン、と心臓が強く跳ねたのを、今でも鮮明に覚えている。
10年前、突然姿を消した大切な幼馴染。
揺れていたのは桜ではなく、彼女の髪だった。

───弌代ちゃん。

思わずその名を呼びそうになったものの、喉の奥で言葉が詰まった。
いまさら私が彼女と関わっていいのだろうか。
気づかない振りをして、このまま去るべきではないのか。
迷いが胸を埋め尽くしていく。

何かを感じ取ったのか、彼女がこちらを振り返る。
その一瞬で、全ての迷いは泡のように消えてしまった。
堰き止められていた感情が溢れ出し、詰まっていた言葉が押し出される。

弌代ちゃん



その瞬間、私ははっきりと感じ取った。
まるで干上がっていた川に再び水が流れ出すように。
何かが始まったのだと。