RECORD
Eno.176 都筑 明日汰の記録
3.祝福されるものは
6月10日、俺の誕生日。
そしてそれは、ロボタが初めて家にやってきた日でもある。
だから俺にとってこの日は、俺が祝われる日ではなく、ロボタの為の一日だったんだ。
少なくとも、去年までは。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
世界を股に掛ける技術者である父さんと母さんは、家にいる時間がとても短い。
北摩テクノポリスの先端技術研究所に勤務していた頃でさえ、
引く手数多の能力を持つ二人は滅多に帰ってくることがなかった。
それを誇らしく思っていたし、家に帰ればキミノとスミレさんが
お隣さんのよしみで夕食に招いてくれたから、寂しいと思うようなこともなかった。
――まあ、ほんの少しだけ、気を遣わせてしまっている罪悪感はあったけれど。

両親からのsurfは、もう一月は届いていない。
今年は正念場なのだと、父さんが前に言っていたっけ。
世界をより良くする為に、多くの人を幸せにする為にその腕を振るっているんだ。
それに、父さんも母さんも俺を見てくれない訳じゃない。ただ、優先順位があるだけ。
だから、何も望んではいないんだ。

まさかたまたま学校でキミノと誕生日の話になったことがきっかけで、
クラスメイトたちに祝われることになろうとは。
突発的に始まったお祝いは、最終的には短冊やら何やらを黒板に張り付ける七夕の亜種のような
よくわからないものになってはいたが、それでもやはり、嬉しかった。

この日の主役から、自分だけを勘定に入れないようにしてしまっていたのは、俺自身だったのかもしれない。
ロボタを祝えば、父さんと母さんに祝って貰えない自分のことを考えずに済むから。
だけど皆に祝福されて初めて、自分がそれを心の何処かで望んでいたのだと気付かされた。
真の幸福とは称賛されるものではなく、祝福されるものである――
昔、何処かの哲学者がそんな言葉を残していたけれど、今ではそれが少しだけ分かるような気がした。
才能を、技術を、閃きを、努力を。認めて貰うよりももっと単純で、誰にでも許されていること。
つまり――祝福されることを望むのは、きっと、悪いことじゃないんだ。

その日の未来からの贈り物は、壊れたホログラム装置だった。
修理の末に出てきた映像は、点滅する手書きフォントのHAPPY BIRTHDAYの文字。

未来からの投棄物に規則性はない。
引き出しの向こうの未来人のことも、俺はまだ何も知らない。
たまたまこれが捨てられて、たまたま流れ着いただけのものだということは分かっている。
それでもなんだか今日ばかりは、皆に祝って貰えたような気がして、それが何より喜ばしくて――
その日はぐっすり、眠れたのだった。
そしてそれは、ロボタが初めて家にやってきた日でもある。
だから俺にとってこの日は、俺が祝われる日ではなく、ロボタの為の一日だったんだ。
少なくとも、去年までは。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
世界を股に掛ける技術者である父さんと母さんは、家にいる時間がとても短い。
北摩テクノポリスの先端技術研究所に勤務していた頃でさえ、
引く手数多の能力を持つ二人は滅多に帰ってくることがなかった。
それを誇らしく思っていたし、家に帰ればキミノとスミレさんが
お隣さんのよしみで夕食に招いてくれたから、寂しいと思うようなこともなかった。
――まあ、ほんの少しだけ、気を遣わせてしまっている罪悪感はあったけれど。

「――別に、期待なんてしちゃいないが」
両親からのsurfは、もう一月は届いていない。
今年は正念場なのだと、父さんが前に言っていたっけ。
世界をより良くする為に、多くの人を幸せにする為にその腕を振るっているんだ。
それに、父さんも母さんも俺を見てくれない訳じゃない。ただ、優先順位があるだけ。
だから、何も望んではいないんだ。

「そう思っていた筈なんだがなあ」
まさかたまたま学校でキミノと誕生日の話になったことがきっかけで、
クラスメイトたちに祝われることになろうとは。
突発的に始まったお祝いは、最終的には短冊やら何やらを黒板に張り付ける七夕の亜種のような
よくわからないものになってはいたが、それでもやはり、嬉しかった。

「これまでだって私はずっとそう思っていたけど、
……来年からも、ずっともう主役だよ。アスタちゃんは」
この日の主役から、自分だけを勘定に入れないようにしてしまっていたのは、俺自身だったのかもしれない。
ロボタを祝えば、父さんと母さんに祝って貰えない自分のことを考えずに済むから。
だけど皆に祝福されて初めて、自分がそれを心の何処かで望んでいたのだと気付かされた。
真の幸福とは称賛されるものではなく、祝福されるものである――
昔、何処かの哲学者がそんな言葉を残していたけれど、今ではそれが少しだけ分かるような気がした。
才能を、技術を、閃きを、努力を。認めて貰うよりももっと単純で、誰にでも許されていること。
つまり――祝福されることを望むのは、きっと、悪いことじゃないんだ。

「あいつらに感謝しなくちゃな」
その日の未来からの贈り物は、壊れたホログラム装置だった。
修理の末に出てきた映像は、点滅する手書きフォントのHAPPY BIRTHDAYの文字。

「って、お前もかよッ!?」
未来からの投棄物に規則性はない。
引き出しの向こうの未来人のことも、俺はまだ何も知らない。
たまたまこれが捨てられて、たまたま流れ着いただけのものだということは分かっている。
それでもなんだか今日ばかりは、皆に祝って貰えたような気がして、それが何より喜ばしくて――
その日はぐっすり、眠れたのだった。