RECORD

Eno.139 浮季草 斂華の記録

私は本当に■■になれますか?

 裏世界で人に会いたくない。
 正確には、知り合いに会うのが怖い。
 何故だろう。壱ノ蛇の皆は怖くないのに、呉院の人に会うのは怖い。
 じゃあ、学外の……もし、アルバイト先の人たちが裏にいたとしたら?
 ……想像すると、少し怖い。でも、呉院の人たちに会う方が怖い。
 でも、不藤くんは怖くなかった。たぶん、裏の世界に既に関わっていると知っていたから。

 だから、表で関わって、かつ裏の世界の人だと知らない人。そして、関わりが深いほど、裏で会うのが怖い。
 想像してみる。家族がもし、裏の世界で活動していたら──。

 ……心底、会いたくない。





 ────ああ、そうか。

 私には秘密がある。
 私が男であったこと、今もその自意識を持ち──固執していること。

 裏に、神秘に関わっていると知られる事で、それがバレて、嫌われるのが恐ろしいのだ。特に、長く共に過ごした人たちに。


 そんな事は無い筈だ、例え皆知っても、気にしないでいてくれる筈だ。
 そう、頭の中で否定しても、心がそれを支持してくれない。
 一度発生した懸念は、台風のように渦を巻いて大きくなっていく。


 身体は女性となって、表世界で神秘が顕になる可能性は殆ど無くなった。
 でも、裏世界で出会ったら。何かしら神秘と関わっていたら。態度の変化やお風呂に入らなかった事から逆算して、男だったのだと察されるかもしれない。
 命と体面、どちらが大事かなんて言われるまでも無い筈なのに、中途半端に現状維持を選んだとバレるかもしれない。
 女子に紛れて過ごしていた男だとなじられるかもしれない。
 純粋な女の子だった"斂華"を乗っ取った悪魔だと言われるかもしれない。
 中学の間は希薄だった、新たに得た友人関係が崩壊するかもしれない。
 なぜ女装が気持ち悪がられるか。攻撃性が庇護欲を被っているからだ。羊の皮を被った狼に見えるからだ。


 ──じゃあ、どうすればよかった?


 だって分からなかった。
 どうすれば良いのかなんて相談できないんだ。
 元々男勝りだった女の斂華の様に過ごしたら、男子かもしれない性同一性障害と思われたら、死ぬかもしれない・・・・・・なんてふざけてる。
 女性を再現して、疑われないよう紛れる服装をして、女を演じるしかなかったんだ。
 




 怖い。

 死ぬのが怖い。

 嫌われるのが怖い。
 関係性を失うのが怖い。
 隠し事を知られるのが怖い。
 汚い部分を見られるのが怖い。
 私の子どもを返してと詰られるのが怖い。

 だったらもう、汚い部分を全て無くしてしまうしかないんじゃないか。
 全て忘れて無かったことにしてしまえばいいんじゃないか。
 無意味な拘りを捨ててしまえばいいんじゃないか。
 心から可愛くなってしまえばいいんじゃないか。
 男を捨ててしまえばいいんじゃないか。



 そうすれば私は。



 本当に斂華おんなのこになれますか?