RECORD
◆ なじ・む【馴染む】


「さて、ここで問いを与えよう」

「【なじむ】ために必要なのは、なんだと考える?」

「…………」

「『観察』、かな」
◆雲居七色展『ドラマチック』
少女はどんな場にも『なじむ』。馴染んでしまう。
馴染むため、場ごとの最適解を実演するには『観察』が必須であり、
全体や細部を見る眼は、自然に養われていった。
視ることは、視られるために必要不可欠なことであると知っている。
だから。
「"そこに初めて担保される存在とは、
他者による存在証明を必要としない"、かあ~」
この一文を読んだとき、
『クラスメイトの冷やかし』で来たつもりの居住まいを正した。

「『見る』のはわりと得意なほう」

「それも、周囲の比較は無意識にやっている」

「【なじむ】には、まず環境の確認が必要だから」
◆北摩シネマズ『摩天楼』
役者の視線のわずかな動き。
気まずいようにも、言葉を選んでいるようにも見える、
室内の換気音をあえて拾った、間の演出。
そのような沈黙のシーンでは、フードの音が否が応でも響いてしまう。しかし、なじむは気にせず咀嚼する。
他の客の存在を気にするのは、映画に失礼な態度であるからだ。
──映画館において、なじむは『場になじむ』より、
優先順位が高い『なじむべき先』を見つけられる。
そのことに、なじむは無自覚に、癒されていた。
注目べき大きな的があることに。
誰の目を気にしなくとも、暗闇の中では自由を選べることに。
なじむよりも先に、安堵していた。

「だから、映画も好き」

「どんな『視点』があるかを知ることができるし」

「役者や演出を『観察』する感覚を養える」

「興味深い話が出たね」

「──『視ることは、視られるために必要不可欠なことであると知っている。』」

「つまりキミは」

「『見る』と『見られる』を経ることで、【なじむ】ことができる──と、考えるわけだ」

「…………」
◆雀荘【牌音軒】
>>135517
ああ。『観察』されているな。……研究職特有の目。
なじむことに徹する少女は、人の視線に敏感であった。
だから、『初心者の人間が慣れているのがおかしい』ならば、
あえて稚拙に実演し直そう。周囲のゲームの違和にならない程度に。
「調査かー。やっぱ大学って大変スねえ」
軽く触れて、何事もなく雀頭を隣のおじさんに貰った。貰うな。
「友達? できた…というか。
できてるかなあ。みんなすごく優しいよ。
わたしもこの街になじんでる、ってかんじがする」
ふと笑って、首をかしげる。
「それにしてもセンセー、わたしのことよく見てますね。
それも調査?」

「そう」

「わたしの『見る』はわたし自身の状況の把握」

「それと同じくらい、またはそれ以上に大事なのは」

「どう『見られる』か」

「──『他者の視線』」

「自分と異なる存在に『見られる』ことにより」

「キミはかけがえのない『日常』に」

「────なじんでいる。」


