RECORD

Eno.139 浮季草 斂華の記録

それでも。だからこそ。

 夕闇の風が頬を撫で付ける。
 裏世界のビルの屋上、誰のものでもない空間に、"少女"が一人、眼下の歪んだ街を見下ろす。
 裏世界では日常茶飯事の、戦いがあちこちで行われている。
 だけど、喧騒とは無縁の、平穏な場所にいた筈の人が危機に陥っている。
 否、その可能性があるだけだ。

(杞憂だったら良いんだけど。)



 "少女"の心には恐怖があった。
 裏の顔を知られる恐怖。隠し事を知られる恐怖。関係性を失う恐怖。

 ──でも。だからこそ。

 杞憂であったならそれでよくて、もしそうじゃなかったら・・・・・・・・・・・
 その方がずっと怖い。恐怖に勝つのは、別の恐怖だ。
 知られる恐怖より、永久に失う恐怖の方がずっと恐ろしい。
 そして、知られる恐怖は、覆い隠す事ができる。

「それに、"男の子"だったら、一度は憧れるだろ?」



 絡繰仕掛けの筒が夕闇の煌めきを反射する。
 ふ、と筒から光が漏れる。燃え盛る様に、光の大きさが増し、やがて少女の身体を包み込む。
 恐怖だけでない、高揚が確かにあった。

「──変身。」



 後には、狐の尾の様な、金の軌跡だけがゆらりと揺れた──。