RECORD

Eno.662 辰森 ユキの記録

ある日の通話1

そろそろ寝ようか、という時間。デバイスが震え、着信を知らせる。

「はい」


音声認識が働き、通話が始まる。なんと便利な機能だろう。

「や、先生だよ。調子はどうかな?学校には馴染めそう?GWは何してた?」



「調子、ですか?体調は万全です。学業も問題ないと思います」
「空気のような存在感、という意味では馴染んだのではないでしょうか」
「GWは本を読んでいました」



「えぇ……」
その声はひどく当惑している。他方そうだろうな、とも思ってはいたのだが。
「居ないの?その……友達とか、親しくなった先輩とか……」



「残念ながら」
ちっとも残念そうではない。



「あー…まあほら、今は必要ないと思うかもしれないけど……」
「なんかちょっとしたきっかけで寂しいとか思うことあるかもしれないしさ」



『先生』のフォローになってないフォロー!

「寂しい、という感覚は今一歩分かりませんし、ヒトの多い所は苦手です」



こうかはイマイチだ

「んん……まあ、今のところは元気なら良いさ、それで」
「君がそう考えていないのは知っているけれど、僕ら……少なくとも僕は君が幸せになることを望んでいるよ」
「何が君の幸せかは分からない。というか、君自身も知らないかもだけれど、それでもだ」
「欲しい物が分からなくても、何かが欲しいと、望んでくれたら良いな、って思うよ」
「君の人生……人生?は始まったばっかりなんだ」
「君があとどれほど生きられるかも分からないけれど……」
「後で振り返った時に、生きてきて良かったな、って思えるようにさ」



「……肝に、銘じておきます」



「んん~~そんなに重い話するつもり無かったんだけどなぁ!」
「……っとだいぶ遅い時間だった!ごめんね、寝る所だったよね」
「おやすみ、ユキ君。願わくば、君の望みが見つかるように」



「有難う御座います。おやすみなさい……辰森先生」



友情……幸せ……望み……何も分からない、分かるはずもない。人並み、などというものは辰森ユキには存在しないのだから。