RECORD
Eno.96 加瀬秋日佐の記録
参道がずうっと続く。続く。
真昏の向こう側には、何も。
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何にも恨めないだろ。
しいて恨むなら己の無力か。
何にも見せられないだろ。
だって、それはあんまりにも。
蓋をする。金色で、重しをかけて。
今はせめてそうしたって、許されたい。
6月第4週
参道がずうっと続く。続く。
真昏の向こう側には、何も。
参道の階段に腰を下ろす。煙草に火を点ける。
煙が上がるのを見れば、一本石畳の上に置いて。
新しくもう一本。今度は咥えっぱなし。
「線香なあ、もってへんねや。禾クン。
だからこれで堪忍な」
煙が上がる。煙を上げる。あなたが知ることのない煙の味。
思考がぐずぐずに溶ける。
疲れてしまったあなた、あなたと同じ顔したあの人。
思考がぐずぐずに溶ける。
成り代わった、あなたたち。疲れきった者の後を過ごす人たち。
何も否定したくない、疲れた者の選択も。あなた達も。
「なあ……」
何にも取り溢したくないけれど、己にあるのは何だろう。
そうだな。己が何に蓋をしたのか、察さないでもないんだ。
「ほんまに、嫌やな」
取り溢したくないんだ。
何にも恨めないだろ。
しいて恨むなら己の無力か。
何にも見せられないだろ。
だって、それはあんまりにも。
蓋をする。金色で、重しをかけて。
今はせめてそうしたって、許されたい。