ブタのぬいぐるみ――釣兼 憧は、神秘管理局調査課 齋通 真円による半日かけた測定の末、新規怪奇として登録された。
緊急だったため、基礎的な測定しかしていないものの、大元は『MayBe』の影響下にある『悪性怪奇』、という結論は以前のままだった 。
以前の記録については、神秘管理局管轄のもの、及びアザーコロニスト管轄のもの、両者全てが完全に消去されており、しかし『MayBe』による神秘使用の痕跡があったことから、同時に発生・同理由で『確率操作』が行われ、『測定値の破損』が発生したものと断定した。
現在確認されている消去または破損データは以下の通りである。
・怪奇関連の釣兼 憧に関する全データ(神秘管理局管轄・アザーコロニスト管轄)
・怪奇関連の釣兼 瞳に関する全データ(神秘管理局管轄・アザーコロニスト管轄)
・202X年XX月XX日 『 』県『 』市『 』区における神秘氾濫案件についての全データ
・202X年XX月XX日の測定バッヂNo.HD9AEKXL(全損)
・202X年XX月XX日の測定バッヂNo.HD9AEXZC(半壊)
今回の測定結果、及び消失データの証拠写真等は別添資料を閲覧のこと。(この記録には添付がないようだ)
測定結果で特に顕著だったのは、存在を示す数値が極端に高くなったことだ。以前はほぼ全ての数値が検出下限値未満 だったが、現在は極端に安定した数値が出ている。
齋通 真円の見解は〝供物〟。ただ、この文字列が真に意味するものはまだよく分かっていない。また、危険指数が跳ね上がっていることも特記事項である。詳細についてはMayBeへの追加尋問と経過観察が必要と判断。アザーコロニストにも協力を仰ぎ、今後はこの釣兼 憧を神秘管理局の管轄としたい。
2.被害防止策
この件の前段階として、以前報告した(報告書No.46K8HSJZ 機密性3)アザーコロニストの関係者との会話記録を参照のこと。
今回の現象の最中、関係者と面会を行っていたことが『関連していると思われたが、当事者に聞いても関連を断定できる要素はなかった』。これまでと同じく、ごく稀に発生する『確率操作』による『補正』と思われる。
また、ブタのぬいぐるみの確保を行うため、現在の所持者である釣兼 瞳と接触。その際の記録を以下に示す。
〇
ピンポーン

「はい、どちらさまでしょうか?」

「釣兼さんのお宅でしょうか……、あれ? 瞳さん本人? ええと、認識されてる自信ありませんが、束都高校の数学担当教師の齋通です」

「あ~……いつも入学式の時だけいる…………休職中の……」

「あ゛~話が早くて助かる。今……親御さんいます?」

「えっ、と! ……今日は丁度帰ってこない日です!」
※大嘘こかれたが気にしないことにした。

「ちょっと……ブタのぬいぐるみのことで話がある。というか多分今家の中にないだろ」
その際、30秒間が空いた。少し震えた声でそういえば、と声が出たが、また30秒間が空いた。
そもそもぬいぐるみを紛失してもこの指摘まで気が付かなかったあたり、裏世界で何かあって手放したかったのだろう。
釣兼の家に入った。どう見てもひとり暮らしをしている。が、今回は関係ないので目をつむる。
麦茶が出された。少し温かった。

「開幕からぶっぱなして悪いんだが、レンリって人……から、裏世界のことは聞いてるな?」
じっくり話をした。まずこのぬいぐるみに、兄である釣兼 憧が入っていること。彼女は困惑し、最初こそ嘘だと話していたが、部屋の奥から兄と喧嘩した時に使っていたらしい『 』を押し付けると、ブタのぬいぐるみが許可なしで動いたので理解してくれた。この件については別途、釣兼 憧の方から始末書を書いてもらう。
更にそこからは長い長い話になった。神秘管理局でこのブタのぬいぐるみ含め、どういう管理をしているのか。俺は今何をして働いているのか。今学校で何をしてるのかから、クラスメイトと仲良くしてるか……流石に以前や今回、MayBeがやったことは口に出せなかったが、取りあえず彼女の兄である釣兼 憧について、そして釣兼 瞳の現在について、それぞれの見解を素直に話した。
相手は本当に何もない、ただの高校生だから。一人の先生として話をさせてもらった。長期に渡りこのような接触を行う届出はしていなかったが、承知願いたい。
3.研究課の見解
・基礎実験による判定
周囲の縁を引き込む挙動あり。また、人格は安定していない。縁が多い程魂は安定するが、逆に完全な密封空間に置こうとしたところ『 』と『 』が見られ、実験を中止した。この際負傷者10名。うち1名は内臓破壊により意識不明の重症。今も意識はなく、恐らく魂ごと食われた可能性が高い。意識を取り戻した釣兼 憧に話を聞いても、心ここに非ずな様子で答えてくれなかった。記憶も自我もなく、加害時の記憶も消されていると思われる。
以上のことから、ブタのぬいぐるみの保護、つまり所属変更の完全な手続き完了までは、釣兼 瞳の手元に置くこととしたい。絶対に手放すなと忠告はした。また、所属が変わった後も、定期検査への協力等、厳格な契約を条件に、なるべく釣兼 瞳の手元に釣兼 憧は置きたいと思っている。これについては会議の必要があるため、また連絡を行う。
1)以前のデータについて、それに関する関係者全員の『 』が『確率操作』により改竄された可能性もあるため、要検討
2)齋通の記憶によれば、当時の見解は〝虚無〟だった。なにもない。