RECORD

Eno.111 鍬田 スズの記録

宇宙戦隊ストレンジャー:最終回『銀河の明日を掴むもの』2/2

同胞たちの、最期の呻きが擦れて消えた。
文字通り、最後の一人になるまで戦うことになってしまった。
勝利の栄光などありはしない。救いようのない陰惨な結末が残っただけだ。

凍えるような寒気に震える。身も心も砕けて散ってしまった様だった。
いつからか辺りがとても暗く感じて、やがて視覚が損なわれたことを悟った。
大迷宮の崩壊を示す地響きと共に、無数の骸に砕けた土砂が降りかかる。

「………………………」


―――ホワイトフェザーは人を愛した。真実の愛を育む美しい恋人がいた。
彼の面影を忘れてしまうその日まで、還らぬ者を待つのだろう。

―――モビーディックは冒険を愛した。七つの海を制覇する夢があった。
その魂は大海原をとこしえに彷徨い、船乗りたちの伝説を生むのだろう。

―――グレイゴーストは肉親を愛した。固い絆で結ばれた双子の弟がいた。
たった一人の肉親を奪った断罪者の無情と冷徹を、彼女は死ぬまで憎み続けた。

―――カトブレパスは芸術を愛した。彼の彫刻を認めぬ者はいなかった。
世に現れぬ作品の数々も、見出されぬまま宇宙の塵へと還るのだろう。

―――シェヴォーダンは結社を愛した。苦難に満ちた仕事を引き継いでくれた。
この結末に誰よりも胸を痛めて、死顔は悔悟に満ちて未練に歪んだ。


綺羅星のごとく集った幹部レガトゥスが、怪人センチュリオンたちが無残な姿で事切れている。
あの中に、己の骸が混ざっていても何の不思議もなかった。
今は彼ら彼女らを悼むことも、弔うことも叶わない。

誰もがより良い明日を願った。愛情と美徳を胸に生きていた。
だが道を誤った者たちは未来を閉ざされ、温情を乞うことさえも赦されなかった。
無慈悲に奪った全ての生命が、この身を圧壊せしめんとして圧し掛かる。

足取りは重く、積もり積もった因果の泥濘をかき分けて進むかのよう。
首を垂れたその道行きは、年老いた巡礼者の横顔に奇妙なほどに似通っていた。
おぼろげな記憶だけを頼りに、壁を伝って冥府の底へと降りていく。

「…………我が…君………今、お傍に……」


何者も応えはしない。
玉座の間には、流れ出た血の匂いと死の気配だけがこびりついている。
決戦はとうに終わっていたのだ。後には永遠の沈黙だけが残されている。
あらゆる状況証拠が、ストレンジャーの勝利とグラティアの崩壊を指し示していた。

光を失った瞳で天を仰ぎ、言葉にならない呻きを漏らす。
糸が切れた人形のように崩れ落ちる。膝をつく。ゆっくりと身体が傾いで、そして。

『………やあ、聞こえてるかいスタッグシザーズ』


気の抜けた声が玉座の間に朗らかに響いた。

『この映像が流れてるってことは……本当に負けたのか。びっくりだな。
ぶっ飛び具合が足りなかったのか? 何だよ宇宙戦隊って。ともあれ―――
人類はグラティアを淘汰した。それもまた、生存競争のひとつの結果だ』


口を開く間もなく畳みかけられ、惑わされる。
大総統ドミヌスのいつものやり口だ。おちおち死んでもいられない。

『損な役回りを押しつけてきたよな。本当に悪いことをした。
埋め合わせと言っちゃあ何だが、溜まったツケは僕が払おう』


『グラティアが役目を終えた以上、お前を縛るものはもう何もない。
元々さ。オクトの話に乗っかったのだって、ちゃんとした理由があるんだぜ。
世界は広い。可能性に満ちているんだ。外に出てみて、いい勉強になっただろ』


悪辣な讒言が大総統ドミヌスの御心を毒していた訳ではなかった。
望む答えのひとつを手にして、心を蝕む毒気が抜けていくようだった。

『好きに生きろよ、スタッグシザーズ!
急に言われても難しいなら、そうだな……』


「……………今更……何を………」


『オクトが脱出組をまとめてる。みんなを助けてやってくれ。
役に立つなら、大総統ドミヌスの座も持って行くといい』


「――――――………」


最終決戦に臨みながら、ストレンジャーの迎撃に向かわなかった者たち。
なぜあれほどの戦力が温存されたのか? たしかに奇妙で仕方なかった。
いるはずのない生き残り・・・・。その全員と殺し合い、死に追いやった。
最悪の答え合わせに打ちのめされて、ただただ茫然自失する。


………嗚呼。もしも。

もしもあの時、レッドの誘いに応じていたなら。
ストレンジャーと行動を共にして、玉座の間の決戦に臨んでいたら?

もしもあの時、オクトスペクターを敵に回すことがなかったなら。
大総統ドミヌスの下で彼の機智を活かし、同胞たちと共に歩んでいたら?

振り返れば、些細な分岐点がいくつもあった。
これが愛を遠ざけ、友情を拒み、孤独な戦いを選んだものの辿った末路だ。
本当の強さは、誰もが鼻で笑う綺麗事の中にこそあったのではないか?

《監察官》スタッグシザーズは、大総統ドミヌスは、秘密結社グラティアは。
宇宙戦隊ストレンジャーが高らかに叫び続けた人の真心―――
”愛”と”友情”、そして”優しさ”……”絆の力”の前に敗れたのだ。

「……最早、この上は………」


『おっと、そろそろお客さんのご登場だ。盛大に出迎えてやろうじゃないか。
こんなビデオ、あとで笑いのネタになればいいと思ってる。
けどな、スタッグシザーズ。これが最後なら、お前にひとつ言っておく』


「…………我が、君……?」


『優勝劣敗は世の常だが、適者生存は結果論だ。
すげえやつが生き残るんじゃない。生き残るやつがすげえのさ。
要は、変われるかどうかだ。
周りをよく見ろ。変われよ! じゃあな!!


マイクに向けて怒鳴ったのだろう。音が割れていて顔をしかめる。
それで少しだけ目が覚めた。

朽ちゆく灰に火種が落ちて、小さな炎が再び芽吹く。
全身の細胞が再起動して、瞳の奥に微かな光が取り戻される。
太古の石像のように凍りついた身体が僅かに動き、ゆっくりと身を起こす。

玉座の間の有様はおおよそ想像の通りだった。
最期まで子供っぽい笑みを浮かべて項垂れた骸から眼鏡を外す。
壊さぬようにとそっと仕舞いこむ。

「……まだやり直せると、ここから始められると………明日を掴め、と。
……………そう、仰せになったのか。貴方は…」


「………全く、呆れた男だ。付き合いきれん……」


宇宙要塞グラティアは間もなく崩壊する。脱出するにはもう手遅れだ。
物理的にも不可能に近いが、なぜだかやれそうな気がした。

「………お別れです、我が君。賢明なる、我らが父よ」


四方八方から爆風が噴き出し、激震に見舞われて上下左右も判らなくなる。
全てを無に帰す破壊の暴風を切り裂いて、漆黒の騎士が苦難の道を往く。
新たなる恩寵グラティアを胸に、適者生存の理に挑み続けるために。