RECORD
6/23~6/25

誠
「ごめんねクロ。
『契約』のその続きの話、待ったかけちゃうことになって」

クロ
『それでいい、誠。
言っただろう、儂は小僧がどのような道を選んでも良いと。
それは今も、これからも変わらん』

クロ
『小僧。お前はもっと自分に素直になれ。
人の顔色を窺って、人に尻尾を振って生きようとは
しなくていい』

誠
「……けど、クロは俺が契約の先に至らなかったら都合が悪いんでしょ。
前に八千代さんと話してたの、忘れてないよ」

誠
「もう身体がボロボロで、次の器が必要だって」

クロ
『……その話は誤解が多すぎる。
ご老体であることには変わりはないが、別に寿命があるわけでもない』

クロ
『儂自身の真価を発揮できない。
その程度の問題しかないとずっと言っておろうが』

誠
「……信じるよ、その言葉」

クロ
『むしろ小僧はその誤解をさっさと解け。
気になるんならカレントにでも儂を連れていって解析すればよい』

クロ
『儂の言った以上の問題は聞けぬだろうからなあ』

クロ
『さて。小僧。
契約に関しては何もその先の話だけではない』

クロ
『当然契約を取りやめる、ということも可能だ』

クロ
『こんな老いぼれと付き合い続ける必要はない。
結んでしまった狩猟本能に悩まされ続けることもない。
好きなやつと生涯を平穏に暮らす道だってあるのだぞ』

誠
「契約を手放す道を選ぶ気は今のところないよ。
それに……この力は捨てたくない。むしろ、強くしたいんだ」

クロ
『ほう?』

誠
「もしかしたら……異世界に『送る』手助けにも、
異世界の『迷子を見つける』力にもなりうるかもしれないだろ?」

クロ
『あぁ、あやつの事情に寄り添う気か。なるほど』

クロ
『となると、契約のその先の話になりかねないな……
……八千代にも相談するか。今度関西に行くぞ』

誠
「えっ 八千代さんに力を与えたのはクロなのにそこに相談にいくの?」

クロ
『仕方ないだろう?
このまま力を強くすれば、それこそ器に昇華しかねんぞ?
あるいは怪異堕ちするぞ? 困るだろう?』

誠
「すっごい困る」
クロがいればそれでよかった。
深い関係は欲しくなかった。
いつか傷つけて、殺してしまうかもしれないから。
この本能が牙を剥いて人に向く未来があるかもしれないから。
側に気配があれば落ち着かず、いつでもどこか意識の奥底で獲物として見ている。
それに、自分が怪異となり得ることや裏世界での生など、居なくなる可能性を視野に入れていて。
だから、誰にも何も残さないように生きるつもりで。
適度な距離感で、振り返ってもロクに思い出されない。
……そんな人間で在ろうとしたのに。
「……でも、それでも優しい貴方が好きになったんです。
言ってたじゃないですか、私のこと……表も裏も嘘じゃないって
それは誠さんにも言えるんです。……どっちも、誠さんなんですよ」
優しくあろうとするあなたも、獲物を狩ろうとするあなたも、
愛しいあなたであることには変わりなくて。
……きっと、心から愛してしまったのだろうなと思ってしまう。
「──……許します、勿論。
優しい貴方も、そうじゃない貴方も、全部肯定します。
貴方が私を肯定してくれたように──私も」
返してくれた温かな言葉に返すように。
もう隠さなくてもいい気持ちをしっかりと表すように。
ぎゅっと、手を掴んでくれたあなたを抱き寄せて。
→
「── 何度だって言います」
「私も、誠さんが大好きです」
境界線を越えて引き込んだ。
今は二人、隣で手を繋いでいる。
決して幸せだけじゃないだろうけれど、それでも……二人ならば。
きっと、二人だけの答えを見つけられるだろうか。
幸福も破滅も、結局は人の手で築くもの。
────そうであるならば、そうなのだろう。
夕焼けに染まる森の中。
季節外れの春風が吹き抜けた。
事情も醜さもイカれた趣味も、全部全部明かして。
それでもいいと、言われてしまったから。
それでも大好きだと言われてしまったから。
俺も。この人のことが、心から好きになってしまっていたから。

「―― どうにか何かを残せる道を歩むよ」

