RECORD

Eno.232 月影誠の記録

6/23~6/25


「ごめんねクロ。
 『契約』のその続きの話、待ったかけちゃうことになって」


クロ
『それでいい、誠。
 言っただろう、儂は小僧がどのような道を選んでも良いと。
 それは今も、これからも変わらん』


クロ
『小僧。お前はもっと自分に素直になれ。
 人の顔色を窺って、人に尻尾を振って生きようとは
 しなくていい』



「……けど、クロは俺が契約の先に至らなかったら都合が悪いんでしょ。
 前に八千代さんと話してたの、忘れてないよ」



「もう身体がボロボロで、次の器が必要だって」


クロ
『……その話は誤解が多すぎる。
 ご老体であることには変わりはないが、別に寿命があるわけでもない』


クロ
『儂自身の真価を発揮できない。
 その程度の問題しかないとずっと言っておろうが』



「……信じるよ、その言葉」


クロ
『むしろ小僧はその誤解をさっさと解け。
 気になるんならカレントにでも儂を連れていって解析すればよい』


クロ
『儂の言った以上の問題は聞けぬだろうからなあ』




クロ
『さて。小僧。
 契約に関しては何もその先の話だけではない』


クロ
『当然契約を取りやめる、ということも可能だ』


クロ
『こんな老いぼれと付き合い続ける必要はない。
 結んでしまった狩猟本能に悩まされ続けることもない。
 好きなやつと生涯を平穏に暮らす道だってあるのだぞ』



「契約を手放す道を選ぶ気は今のところないよ。
 それに……この力は捨てたくない。むしろ、強くしたいんだ」


クロ
『ほう?』



「もしかしたら……異世界に『送る』手助けにも、
 異世界の『迷子を見つける』力にもなりうるかもしれないだろ?」


クロ
『あぁ、あやつの事情に寄り添う気か。なるほど』


クロ
『となると、契約のその先の話になりかねないな……
 ……八千代にも相談するか。今度関西に行くぞ』



「えっ 八千代さんに力を与えたのはクロなのにそこに相談にいくの?」


クロ
『仕方ないだろう?
 このまま力を強くすれば、それこそ器に昇華しかねんぞ?
 あるいは怪異堕ちするぞ? 困るだろう?』



「すっごい困る」






クロがいればそれでよかった。
深い関係は欲しくなかった。
いつか傷つけて、殺してしまうかもしれないから。
この本能が牙を剥いて人に向く未来があるかもしれないから。
側に気配があれば落ち着かず、いつでもどこか意識の奥底で獲物として見ている。
それに、自分が怪異となり得ることや裏世界での生など、居なくなる可能性を視野に入れていて。

だから、誰にも何も残さないように生きるつもりで。
適度な距離感で、振り返ってもロクに思い出されない。

……そんな人間で在ろうとしたのに。

[西部学生区][学区内森林]
アヤメ [Eno.763] 2025-06-24 00:02:47 No.2449865

「……でも、それでも優しい貴方が好きになったんです。
 言ってたじゃないですか、私のこと……表も裏も嘘じゃないって
 それは誠さんにも言えるんです。……どっちも、誠さんなんですよ」

優しくあろうとするあなたも、獲物を狩ろうとするあなたも、
愛しいあなたであることには変わりなくて。
……きっと、心から愛してしまったのだろうなと思ってしまう。

「──……許します、勿論。
 優しい貴方も、そうじゃない貴方も、全部肯定します。
 貴方が私を肯定してくれたように──私も」

返してくれた温かな言葉に返すように。
もう隠さなくてもいい気持ちをしっかりと表すように。

ぎゅっと、手を掴んでくれたあなたを抱き寄せて。

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[西部学生区][学区内森林]
アヤメ [Eno.763] 2025-06-24 00:16:54 No.2450757

「── 何度だって言います」
「私も、誠さんが大好きです」

境界線を越えて引き込んだ。
今は二人、隣で手を繋いでいる。
決して幸せだけじゃないだろうけれど、それでも……二人ならば。
きっと、二人だけの答えを見つけられるだろうか。

幸福も破滅も、結局は人の手で築くもの。
────そうであるならば、そうなのだろう。

夕焼けに染まる森の中。
季節外れの春風が吹き抜けた。

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事情も醜さもイカれた趣味も、全部全部明かして。
それでもいいと、言われてしまったから。
それでも大好きだと言われてしまったから。

俺も。この人のことが、心から好きになってしまっていたから。

「―― どうにか何かを残せる道を歩むよ」