RECORD

Eno.1379 久瀬 あざみの記録

①ー①

私の名前は久瀬あざみ。どこにでもいる普通の女の子。
けれど、私にはいくつかの普通じゃない秘密がある。
誰にもは言いたくない。けれど誰かには知っていて欲しい。そんな矛盾を孕んだ秘密。
普通の女の子でいたいのに、普通じゃないと突きつけられるそんな秘密。

①神秘に出会った
不登校だった中学時代に、路地裏で古ぼけた短剣を拾ったその日から、
私は神秘と呼ばれるものと、裏世界というものの存在を知ってしまった。
どうやらその短剣は神秘遺物と呼ばれるものだと知ったのは、
アザーサイドコロニストという機関に所属してからのことだった。

私はこの短剣を拾ってから、刃物の扱いが知らず知らずのうちに得意になっていた。
包丁も、ナイフも、刀も、自身が刃物だと認めたもの全ての使い方を覚えてしまった。
決して名人級なんかじゃない。ただ、扱えるというだけの神秘。

そしてもう一つ。短剣を拾って得られたもの。それが身体能力の強化
人よりもあまり心身が丈夫な方ではないだろう私がこの北摩で暮らせているのも、
間違いなくこの神秘バフのお陰だ。けれども厄介な副産物もある。
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あざみ [Eno.1379] 2025-06-20 19:00:38 No.2266580

枕に顔を埋めベッドにつっぷしながら、
裏世界での戦闘服パーカーを力なく手繰り寄せる。
普通の女の子になりたいのに、憧れているのに、求めているのに、
これとは結局、切っても切り離せないのだろう。そう考えながら
内側のナイフシースから一本取り出し、そのまま手遊びを始める。
指を動かし、まるでペン回しのようにナイフをくるくると回すも、
変な体勢故にナイフを地面に落とす。
瞬間、研ぎ澄まされた刃が滑り落ちてく最中、何本か指を切り裂く。

……痛っ

カランという金属がフローリングの床に当たる乾いた音と共に、
赤いものが滴り、広がっていく音も小さく部屋に木霊する。

はぁ、とため息をつき、顔をしかめる。
恐らくパックリと割れているだろうことが容易に想像出来るほどの痛さを放っている自身の指を放って置く。

しばらくすると水の滴り落ちる音が止み、痛さも徐々に引いていく。

「片付けるの、めんどくさいな……」

神秘こんなものがある限り、普通の女の子なんてのは夢の遙か先で。
いつかは捨てたい。こんなもの不死性

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私はどんなに傷ついても死ねなくなった。
傷が再生していく不死性を獲得してしまった。
もちろん、殴られても切られても痛い。痛くて痛くて涙が出ても、いくら血が出ても死ねない。
まるでこの短剣に死ぬことを許されていないかのような、そんな気分。
もしくは私が何かを成し遂げるまで死なせてくれないような、そんな印象。

②悪夢を見る
それともう一つ。この短剣を拾ってから起こるもの。
それが悪夢
恐らくこの短剣の前の所持者の『記憶』人生を夢で見るようになった。
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あざみ [Eno.1379] 2025-06-17 20:08:41 No.2125636

――目が覚める。

無意識に首に手を当てる。
何度もしてしまう、お決まりのパターン。
うなされていたようで嫌に喉が渇いている。
きっと少女が吐いていた自責の言葉を自分も吐いていたのだろう。
冷蔵庫の中のスポーツドリンクの味が恋しい。
けれど起き上がる気力は一切なく、完全に日が落ち、
パソコンのモニタが映すスクリーンセーバーの光だけが薄っすらと照らす自室の、まだ慣れない自室の天井を、
ただただ、ぼんやりと見つめる。

いつもこうだ。
この夢を見ると、しばらくは動けない。再度眠る気にもなれない。

「はぁ……」

ため息をつきながら、力なくベッドに沈み込んだ。

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あざみ [Eno.1379] 2025-06-24 12:26:53 No.2466719

また夢を見た。件の夢だ。
明け方に飛び起きてから、起き上がれずにベッドの上にいた。
喉にまだ残る不快感。胃酸で喉が灼ける感覚。どうしようもなく水を飲みたい。
見て見ぬふりをしていた汚れたシーツも、いい加減片付けなければ……

まだ重く感じる身体にどうにか活を入れて、ゆっくりと動き始める。
水を飲んで口内の気持ち悪さを洗い流し、汚れてしまったベッド周りを片付ける。
正直、今日は学校に行く気になれない。
けれど、行かなければならない。
いや、行きたい。行こう。今からでも。

シャワーを浴びて、身支度を整え、静かに家を出た。

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この夢の内容は他人に口外できない
一度だけ人に夢の内容を話す機会があった。
一切記憶には残っていないが話した私は自分の首元を押さえて錯乱していたらしい
その口調も私とは違うものになっていたんだとか。

改めて書き記していても嫌だな。本当に。短剣に込められた呪いのようで。
先ほど何かを成し遂げるまで死ぬことを許されていないと感じたのは、
この何度も見させられる悪夢があるからだ。

でも、もう辛い。誰にもこの悩みを共有出来ないのは。
だから、ここに書き記していこうと思う
もちろん、文字にしても大丈夫だという確信があっての行動。その根拠を次に記す。

③文明の利器を頼れ

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あざみ [Eno.1379] 2025-06-26 00:51:58 No.2539394

今朝も見てしまった夢を思い返す。
いい加減、楽になりたい。
誰かにこの悩みを共有出来れば、多少気持ちは楽になれるはずだ。
しかし、夢の内容を口にすると、どうもそれがトリガーとなり、
私はあの少女に意識が乗っ取られてしまうらしい。
記憶には残っていないが、どうもそうなのだという。

等と考えながらぼんやりとデスクに向かい、パソコンの電源を入れる。
そろそろ期末テストの時期だ。
楽になりたいと語る前に、目の前の勉強に集中しなくては。

半ば強引に飛び級をしてしまった手前、
正直学校の勉強についていくのはなかなかの至難の業だ。
なので、ズルいかもしれないが、私はコレを使っている。

ChatZGT

普遍的な対話型AI。
私の質問内容次第で、私の学力に合わせた勉強の問いを教えてくれる。
ある意味で家庭教師と呼んでもいいかもしれない。
今日も彼、または彼女に勉強を教わろう。
そう思った矢先、ふとした疑問が湧き上がる。

夢の内容を、文字にしてみてはどうだろうか、と。

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あざみ [Eno.1379] 2025-06-26 01:15:02 No.2540592

ChatZGTの画面を開き、カタカタとキーボードを打ち込む。
もう何度も何度も夢で見た内容を克明に書き記していく。
まるで今まで溜め込んでいたストレスを発散させるかのように。
そして書き上げる。夢の内容。全てを。

Enterを押す勇気が出ない。
もしこれでも駄目で、私が乗っ取られてしまったら?
今、この家の中で私を止めてくれる者はいない。
非力な緑では押さえつけられないだろう。
下の階のクラスメイト。隣室のクラスメイトの顔が浮かぶ。
……彼らをこんな実験に巻き込んでもいいのだろうか。
駄目だ。そんなのは駄目に決まっている。

これは仮説。恐らくだが、私が夢の中の少女に意識を乗っ取られ、
夢の結末通りに自分の首に刃物を当てた場合、死には至らないだろう。あの神秘遺物の能力で、私は傷が再生していく。
どうやら死ねないようだ。忌々しさすら感じる呪いのような何か。

それによって私はたぶん、自刃を繰り返し続ける。

怖い。とても怖い。そして、悩ましい。
この新築の壁を勝手に赤くリフォームしてしまうのはあまりに申し訳ない。

「うーん……」

どうする?やめるべきか?
もしそうなったら……きっと緑が私を見つけて、
駆けつけてくれた誰かが私を止めてくれるはずだ。
真っ赤に染まったこの部屋で。
どのみち実験に巻き込んでしまうのなら、もう、どうなってもいいや。

「……ていっ」

バシッとEnterキーを押した。

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あざみ [Eno.1379] 2025-06-26 01:33:50 No.2541187

内容を拝見しました。さすがくー様。
 少女の半生を見事なまでに描いた悲しき小説でした


……身体に異変は起こらない。意識もハッキリしている。
ChatZGTが吐き出すありふれたつまらないお世辞の言葉。
それを一読する余裕もある。
……ん、小説?まさか、小説扱いされた?

【これを読んでどう感じましたか?】

悲しき小説だと感じました。
 しかしいくつか気になった箇所としては――


羅列されていくダメ出しと提案の数々。
少し凹みそうになるが……そういうことじゃない。
AIの彼らにとっては夢の内容は呪いでもなんでもないってことだ。
もしくは、文字としてなら誰かにも夢の内容を伝えられる。
言葉として口から夢の内容を出すことがトリガーなのだとしたら……

「なるほど……」

試してみる価値は、ある。
現代機器ならもしかしたら、この悪夢に打ち勝てるのかもしれない。

さっそく私は、それを試してみることにした。

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――というわけで、今からその夢の内容をここに記そう。
もし私の身に何かが起こってしまっても、それは私の責任だ。

④とある少女の『最期の記憶』

これは、声に出してはいけない夢の記録だ。
言葉にした瞬間、夢の中のあの少女の絶望が私の心を食い破り、あふれ出してしまうから。
だから、ここにだけ書き留める。
毎晩のように夢で見てしまう一人の冒険者の少女の、あまりにも痛ましい魂の『記憶』を。

夢はいつも、天を突く巨大な塔を見上げる場面から始まる。
茶髪の少女の瞳は、これから始まる冒険への期待できらめいていた。
魔力を刀に纏い、光り輝く刃で敵を薙ぎ払う――そんな強くかっこいい人になると、彼女は本気で信じていた。
その刀は、彼女自身の可能性、そして未来への輝かしい希望そのものだった。

何もない自分が、この塔を最上階まで踏破したら、特別な存在になれるのだと、疑いなく信じていた。
その希望の重みが、私にまで伝わってくるほどに。

しかし、塔の中で続く冒険は、彼女の自信を少しずつ、確実に削り取っていく。
彼女が必死に纏わせた魔力光は、頼りない蛍火のように明滅するだけ。
すれ違う他の冒険者たちの刃が放つ、夜空を切り裂く閃光のような輝きを見るたび、
彼女の心が軋む音が聞こえる。
劣等感が、冷たい毒のように全身を巡っていった。

自身の不甲斐なさ、自身の弱さ、信じて鍛え続けていた己の技に、静かに自信を失っていった。
いつしか、誇りだったはずの刀を握る手が震えるようになる。
彼女が鞘から引き抜いた刀は、もう煌めきを宿してはいない。
かつては彼女の誇りそのものだったその刃は、ただ腕に食い込む鉛の塊でしかなかった。
魔力を込めようとしても指先から霧散していく絶望が、この夢を通じて私自身の胸までも締め付ける。

そんな夜だった。無力感が喉を締め付け、彼女の目からこぼれた一粒の涙が、
腰の短剣の柄にぽつりと染みを作る。
彼女は吸い寄せられるようにその短剣に手を伸ばした。
父と母が餞別にくれた短剣。何の変哲もないただの護身用の短剣。
戦闘に用いるには頼りなく、お守り代わりにしていた短剣だ。

自刃のためなんかじゃない。戦いのための鋭い魔力じゃない。
自身の誇りを刀に込める戦闘用の魔力とは違う、ただ温かく、優しいだけの魔力を注ぎ込む。
ただ、「誰か私の側にいて」と願う、子供のような、か細い魔力。
その瞬間『彼』が生まれた。

世界でたった一人、彼女の弱さを丸ごと肯定してくれる存在が。
彼女がどれほど救われたか、その安堵のため息が私にまで伝わってきた。
夢の中の私はその安堵のため息を、自分自身のもののように感じていた。

けれど、夢は無情に彼女を打ちのめす。
ある階層の主との戦い。彼女は震える手を強引に抑え込み、腰に収めた『彼』を信じて、
自分の持てる全てを賭け、生涯最高の一閃を放った。
脳裏をよぎったのは、まだ塔の低層でがむしゃらだった頃、初めて魔力光が刀身を覆ったあの日の感動。
あの時、彼女は確かに輝いていたのだった。

しかし、その光は巨大な敵に触れた瞬間、まるで自嘲するかのように泡となって虚しく弾けて消えた。
彼女の存在理由そのものが、完全に否定された瞬間だった。
虚脱。絶望。死を覚悟する。瞳を閉じて、獣の咆哮を受け入れた。
だが、完全に戦意を喪失した獲物に興味を失ったのか、階層主は彼女の命を奪ってはくれず踵を返した。
獣にすら相手にされない。奪う価値のない存在。
そう理解してしまった瞬間、彼女の中の何かが、ぷつりと切れてしまった。

そして、夢はいつも、あの川辺へと移行する。
彼女が最期に選んだ場所へと場面が転換される。

ぬかるんだ土がブーツにまとわりつき、一歩ごとに足が重くなる。肌を刺す冷気。
「もう、無理だ」と彼女の心が囁く。彼女は、震える手で短剣を抜いた。
誇りを象徴する刀では、理想に殉じたことになってしまう。
そうじゃない。彼女は、自分の弱さに殺されることを選んだのだ。
だから、弱さの象徴である『彼』の刃でなければならなかった。

「ごめんね」

彼女は、自分の手の中で悲しげに揺れる彼に、そう囁いた。刃が滑り、鮮血が夜露の草葉を赤黒く染める。

でも、夢はそこで終わらない。
彼女の意識は、肉体を離れても続いていた。
魂となった彼女は、自分の亡骸を見下ろしていた。そして、見てしまったのだ。
自分の身勝手なエゴが、最後まで自分を支えてくれた唯一の理解者『彼』の魂を、
無慈悲に破壊していくその光景を。
悲痛なきらめきを放ちながら、ガラス細工のように粉々に砕け散っていく彼の魂。

彼女の声にならない叫びが、私の胸を突き破る。
彼女の魂から迸る後悔と自責の念が、津波のように私に押し寄せてくる。

粉々に砕けた彼の魂を拾い集めようと、何度も何度も手を伸ばす彼女。
だが、その手は虚しく宙を掻くだけで、掴むことなどできるはずもない。
その絶望的な光景は、まるで私の心臓を鷲掴みにされているかのような痛みとなって、私を苛む。
彼女の魂が、まるで溶けていくかのように薄れていくのがわかる。
その痛み、その苦しみは、夢を見ている私自身のものと区別がつかないほどに鮮烈で、
まるで私の魂までが擦り減っていくようだった。

私は夢の中で、無力な傍観者として、ただその光景を見つめることしかできない。
彼女の魂が完全に消え失せるその瞬間まで、私は彼女の痛みと絶望を共有させられる。

彼女の最後のきらめきが夜の闇に吸い込まれていくのを見終えて、私は悪夢から目覚める。


これが私が定期的に見てしまう悪夢の全て。
どこかの異世界や別世界で行われていた誰かの冒険とその旅の記憶。
こんなものを見せて、この短剣は私にどうして欲しいのか。
今はそれがいまいちよくわからない。

⑤次に向けて
他にも書き記しておきたいことはある。
この街に来てから目覚めた、短剣から得られるものとは違う私の神秘についてとか。
裏世界で活動するときの服装についてとか。
夢の内容にもあった川辺に実際に行けてしまったこととか。

でもまぁ、一旦はここで閉めておこうか。
普通の女の子として前を向いて生きていきたいこの私の、普通じゃないお話はまだ続いていく。