RECORD

Eno.77 磯向井 利慕の記録

❖回想録



「リシタくん。お母さんの電話番号、知らない?」


「知らないです……」


「そっか。お仕事の場所も知らない?」


「知らないです。熱出ても一人で帰れます」



 母は電話を嫌っていた。当然、家に電話はない。
 スマートフォンは持っていても、常にポケットWiFiを所持していて、電話の機能をなくしていた。テレビも新聞もなく、情報は外で仕入れるしかなかった。

「今日は遊べないなぁ」



 小学生にもなれば、自分はすぐに転校する事を覚えていて、同学年の人と挨拶はそこそこに図書室かパソコン室によく出向いた。
 家に帰れば、娯楽らしい娯楽がないから、そこでしか遊ぶことが出来なかった。

「お腹すいたなぁ。
 お母さん、冷蔵庫に何入れてくれてるだろ」



 転校して急にやって来たから、給食費を払えて無くて図書館で時間を潰して。
 学校への積み立て金も支払ってないから、遠足も課外学習も行かずパソコン室に籠もる。
 けど、だからといって支払うのも問題だった。自分はいつ転校するのか分かってないから、払って結局転校して無駄になる事もあったのだろう。

「………」



 転校を繰り返す浮いた存在であるから、話し掛けられる事は多かった。ただ、そうしてもまた転校していく。
 どうせ別れるのだから、持って行けないものだから。沢山と会って、沢山のさようならをした。
 そういう物だと慣れて、学年が上がるに連れて泣くこともなくなった。

「お母さんは、いつも辛そうだから」


「ワガママ言っちゃダメだ」



 自分のことは、自分でするしかないのだ。
 そうすれば、母がいつか暗い顔でなくなる事を信じて。