RECORD

Eno.107 芟花萌花の記録

𝑨𝒏𝒅 𝒕𝒉𝒆𝒓𝒆 𝒘𝒂𝒔 𝒂 𝒇𝒂𝒊𝒏𝒕 𝒔𝒘𝒆𝒆𝒕 𝒔𝒄𝒆𝒏𝒕 𝒊𝒏 𝒕𝒉𝒆 𝒂𝒊𝒓.

「それにしても……兄さんてば。
 やっぱりカップ麺ばかり食べてたんだから……」



独り言ち、道を往く。
やっぱり自分がしっかりしなければ。
そう浮かべてこそいるものも、当然、少しも悪い気はしない。

そのままぽやぽや、浮かべるのは今日からの献立のことだ。
……そんなふうに、考え事をしながら歩いていたからだろうか。


「……あれ」



―――気がつくと、そこは、見たことのない場所だった。

見渡す視界に映る景色は、この世のものとは思えない。
少なくとも、越してきたばかりの北摩テクノポリスの街並みと、同じものとは思えなかった。

どこからか、声がする。自分の名前を、呼んでいる。
無意識だ。逃げるみたいに、歩幅が、広くなる。
だというのに、声が、近付いている気がする。
振り返ることができない。……こわい。

焦燥の折り、浮かぶのは兄の顔だった。
もう、このまま、彼とも会えなくなるんじゃないかなんて、そんな、最悪の、


「…………あ……」



突き当たり。足元が、暗い。
自分の後ろに、"何か"が―――いる。

そんなとき。


 ―――

「……! だ、だれ……?」



視界の、端。
それとは別の"何か"が、動いたような気がした。

思わず震える声が出て。
けれどそれには、返事はなくて。
足元が一層暗くなる。背後の"何か"が近付いている。

ごくり、息を呑んで―――振り 返り。


「!」



刹那、白閃。
……あとのことは、正直な話あまり覚えていない。
神秘ハンターを名乗る女性に手を引かれ、異界の土地を切り抜けて。
人の温もりに、随分安堵をしたような気だけは今もしている。

そして。
見知った、というにはまだ日が浅いけれど、少なくとも『現実』だと断言できる、そんな北摩の街並みに辿り着く、直前。


 ―――

「……?」



振り返る。けれど、誰もいない。
何も言わずに、そのまま異界を後にした。

きっと、気のせいだ。
そうに、違いないから。