RECORD

Eno.270 猫の記録

猫の記憶19

死んだ猫を見たら、可哀そうだと思ってはいけないよ。
猫がついてきてしまうから。


いつのことだったか、公園に妹と行った。
あの白猫に会うために。
けれど白猫はいなくて、かわりに草影で何かをしている青年を見かけたのを覚えている。

「ねぇ、なにをしているですか?」



小さな妹が口を開いた。
その時私は、やめようよ、と妹を引っ張った気がする。

「猫を埋めているんだ。お墓をね、作ってるんだよ」



青年は、私達に背を向けたままそう答えた。
ただ、背を向けていてくれて良かったとも思った。
その手に抱える猫を見る事がなかったから。

「おうちのねこちゃんが、しんじゃったんですか?」



妹はそのまま質問を続けた。
青年は首を横に振った。

「ううん。知らない白猫さんだよ。けど、可哀そうだと思ったから」



猫は死ぬとき家を出るっていうから。
誰にも気が付かれたくなかったのなら、埋めてあげた方がいいのかなって。
それと同時に、誰にも知られずに死ぬのは寂しいんじゃないかって。
だから、何も知らない自分が埋めてあげようと。

ただのエゴだろうけれど。

青年は、幼い自分たちにそう語った。
勿論、言葉の意味は分からなかったし、妹も首をかしげていた。
そんな様子を感じてか、お墓を作り終えた青年は、そこでようやく振り返った。

「猫さんの家族の代わりに、悲しんでいるんだよ」



変わった人だな、と思った。

後にその人が、家族の代わりになるなんて思わなかったのだけれど。

「私は」



その猫が可哀そうだと思った。
墓を作ってもらったことで、本当の家族に見つけてもらう事はもうないのだからと。

***


部活の帰り、そんなことを考えながら公園に立ち寄った。
背後に何かの気配を感じて振り返る。

何もいない。

静かな足音が付いてきている気がして怖かった。


そのまま走って家に向かう。




「あなたは、ねこがしんだとき、かわいそうだとおもったのですか?」



そんな少女の声が聞こえた気がして、怖かった。