RECORD

Eno.107 芟花萌花の記録

𝑨𝒏𝒅 𝒊𝒕 𝒔𝒕𝒊𝒍𝒍 𝒆𝒙𝒊𝒔𝒕𝒔 𝒂𝒔 𝒂 𝒔𝒎𝒂𝒍𝒍, 𝒍𝒊𝒈𝒉𝒕 𝒃𝒐𝒙 𝒊𝒏 𝒎𝒚 𝒉𝒆𝒂𝒓𝒕.



――― 出会った日から、その人はとても親切だった。



「あのね」
「ぼうとするのはそっちの勝手だけど」

「此処は危ない所なんですよ」



そう手を取られ、黄昏を往く。
見ず知らずの他人だ。
だからこの人は、親切な人なのだとそう思った。



「相手に喜んでほしい、が主目的であるなら」

「相手に喜んでもらえるまで付き合えばいいんです」



いくつも。


「好きによんでください。呼びやすいのでいいから」



いくつも。


「……」

「自分が居たい場所ぐらい自分で決められるでしょうきみなら」



あのときだって、そうだ。
ちょっとした躊躇や不安すらも、拾い上げてくれる人。
そうやって、手を差し伸べてくれる人。




「放りだせないみたいなんです、おれ」




その言葉の通りなんだろうと思った。
そういう人なんだろうって、思っていた。

誰しもに対して。
それだって別に、よかったんだ。
そういう人はどうやら身の回りにたくさんいる。
感謝こそ抱いても、不満を抱いたことなんて1度もない。



それが。







「おれはどうして」


「きみへ手を差し出そうとしてしまうんだろう」








輪郭も感じさせないくらい、淡くやわらかな声だった。
じわり、染みていくと共に、抱いていた前提が音もなく融けて消えていく。

誰しもに伸べられる手では決してなかった。
そんな人では決してなかったのに、伸べられてきたひとつひとつの言葉が確かにあって。



「……はい」



そのひとつひとつの言葉の度に、ちょっとした躊躇や不安たちは、確かに掬い取られていたのだと。











   見上げた星空はいつもよりずっと近かった。
           そのことを教えてくれたのだって、紛れもないその人だったのだ。











……
…………

……………………




「……えっとね」


「べつに、…えと。そういうんじゃ」



「………、そういうんじゃ、なくって



沈黙。


「…………」



「…………なんでも、ない……




なんのことはない。
重ねかけた言い訳が、ちょっと不義理に思えてしまったのだ。

誰への不義理かと問われると、少し、解答に困るのだけれど。