――― 出会った日から、その人はとても親切だった。
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「あのね」
「ぼうとするのはそっちの勝手だけど」
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「此処は危ない所なんですよ」
そう手を取られ、黄昏を往く。
見ず知らずの他人だ。
だからこの人は、親切な人なのだとそう思った。
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「相手に喜んでほしい、が主目的であるなら」
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「相手に喜んでもらえるまで付き合えばいいんです」
いくつも。
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「好きによんでください。呼びやすいのでいいから」
いくつも。
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「……」
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「自分が居たい場所ぐらい自分で決められるでしょうきみなら」
あのときだって、そうだ。
ちょっとした躊躇や不安すらも、拾い上げてくれる人。
そうやって、手を差し伸べてくれる人。
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「放りだせないみたいなんです、おれ」
その言葉の通りなんだろうと思った。
そういう人なんだろうって、思っていた。
誰しもに対して。
それだって別に、よかったんだ。
そういう人はどうやら身の回りにたくさんいる。
感謝こそ抱いても、不満を抱いたことなんて1度もない。
それが。
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「おれはどうして」
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「きみへ手を差し出そうとしてしまうんだろう」
輪郭も感じさせないくらい、淡くやわらかな声だった。
じわり、染みていくと共に、抱いていた前提が音もなく融けて消えていく。
誰しもに伸べられる手では決してなかった。
そんな人では決してなかったのに、伸べられてきたひとつひとつの言葉が確かにあって。

「……はい」
そのひとつひとつの言葉の度に、ちょっとした躊躇や不安たちは、確かに掬い取られていたのだと。

見上げた星空はいつもよりずっと近かった。
そのことを教えてくれたのだって、紛れもないその人だったのだ。
……
…………
……………………

「……えっとね」

「べつに、…えと。そういうんじゃ」
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「………、そういうんじゃ、なくって」
沈黙。

「…………」
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「…………なんでも、ない……」
なんのことはない。
重ねかけた言い訳が、ちょっと不義理に思えてしまったのだ。
誰への不義理かと問われると、少し、解答に困るのだけれど。