RECORD

Eno.32 不藤識の記録

record. 『unjust and unequal』

苦痛。
魂を蝕まれるような感覚は、裏世界でより強く知覚するもの。
止めたくても止められない。逃げたくても逃げられない。
神秘の励起により発生する、己の寿命が削られていく現象。
不等式としてある限り、常に感じる痛み。
既に慣れてしまったこの痛みは、本来ならもっと強く、より早く魂を削り取っていたという。
その元凶たる落陽明松は、果たして何から熱を奪っていたのか。

答えはひとつ。人間としての器、その才覚。
不等式は不等式のみしか扱えない。落陽明松は日喰い柘榴と、反転解放のみ。
であれば、陰陽五行の才能は、その全てを器に依存している。
圧倒的な火行への適性。胎児であった頃に、落陽明松が憑いた原因。
それこそが操縦桿を握る者のアドバンテージであり、この器の最大の欠点である。

不知火の母が何故己の子を手放したのか。
落陽明松が母の熱を奪ってしまう以外にも訳がある。
不思議なことに、その身は神秘を帯びるほどに発熱するのだ。
故、母は既に子を産める身体ではない。さらには京介を預ける際に左目も捧げている。
その願いは、大いに尊重されるべきだろう。
我が子のためならばとその身を捧げることは、そうできるものではないのだから。

唯一、不藤識だけがそれを知らない。
白亜も京介も生存にしがみつかんとする中で、一人だけその理由がわからない。
愛を知らぬまま、ただ灼熱の世界を生きているだけ。
意識の根本を変えるには、他人の意志が必要だった。


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不知火京介は、生きることを選ぶ。
何がなんでも、この身体を生かすことを選ぶ。
自分が奪い取ってしまった不知火京介の人生を、不知火京介として受け継ぐために。
託された想い、親愛に報いるためならば。

それでも、常に一緒に過ごしてきた彼が。
絶望から始まり、灼熱の世界で生きる彼が。ずっと苦しみ続けてきた彼が。
もしも、自分よりも生きる気概を見せてくれているのなら。
この身体を明け渡したって良いと願うのも、きっと愛のひとつなのだろう。

親愛を繋ぎ、命のバトンを渡す。
その尊さを、誰よりも知っているから。






それでも、もし自分が生きていられるのだとしたら。
自分にだって、やりたいことリストは沢山あるから。
その達成に没頭する日々も、悪くないだろう。