久しぶりに帰ってきた自室。
備え付けの家具だけで殆どものなんて置かれてないこの部屋の様子は、まるで昔の自分を見ているようで、居心地が悪い。
そんなことをぼんやりと考えながら、少し埃が付着しているクローゼットの扉を開けて、今欲しているあるものを探す。
「まぁこれでいっか」
言い聞かせるようにひとりごちる。
手にしたのは適当なパーカー。
それと数年前の残りの不織布マスク。
正直、顔を隠せればなんでもよかった。
裏世界で最近、クラスメイトをよく目にする。
今まで私には存在しなかった楽しさに、非日常で出会ってしまう。
お仲間だったという嬉しさや安心感と同時に、
どこか寂しさのような、悲しさのような、何かが込み上げてくる。
偶然出会っても、視認しても、声をかけることができない。
コミュ症的なそれではなく、緊張のそれではなく、
自分の姿を見られたくないという気持ち。
知られたくないという感情。知られたくなかったという思い。
そんなものが込み上げてきて、最近の裏世界は息が詰まる。
だから、私はこれらに頼りたい。
久瀬あざみという、クラスにいる変な女の子でありたい。
そのために。
「なんてね」
そう囁きながら、うそぶきながら、
パーカーを羽織り、マスクを着けて、フードを降ろす。
いくら顔を隠したところで、いつかはバレてしまうのだろう。
いつかはバレて、あぁあの変な子はやっぱり変なんだ。
なんて思われただけで済んで。それでまた日常に戻っていって。
いつもみたいに、クラスのみんなと笑い合って……
なんてのは、都合の良い幻想かもしれない。
もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。
向こう側の自分を見られて、幻滅されるかもしれない。
喜んで刃物を振るう自分を、喜んで相手を斬り伏せ突き刺す自分を、
気持ち悪いものだと、拒絶されるかもしれない。
それは嫌だ。たまらなく嫌だ。
せっかく出来た友達を……失いたくない。
だから私は、顔を隠そう。
久瀬あざみという2年1組の変な女の子であるために。
素の自分を守るために。
「……守る価値もないだろうに」
鏡を見やる。猜疑に歪んだ瞳が自分を見ている。
『記憶』がうさぎを殺すんだ。
書き捨てた日記の文面、その通りに。
うさぎは寂しいと死んでしまうんじゃない。
うさぎは楽しさを知ったから死んでしまうんだ。
麻酔のように甘い日常に、麻薬のように楽しい日常に、
トリップして、トリップして、トリップして、
最後にはバッドトリップしてしまう。
けれど、その甘い痺れに手を伸ばしてしまう。
死んでしまうとわかっているのに、甘い痺れに浸っていたい。
だから私は、その『記憶』を守るために、顔を隠そう。
久瀬あざみのためなんかじゃなく、
久瀬あざみと楽しく接してくれる愉快な人たちのために。
「……学校行かなくちゃ」
今思い返すと恥ずかしすぎる……
こんなブツクサ言ってるも今では普通に裏世界でクラスメイトと遊んでいる。
この頃の私は、自分を隠そうと必死だったのだろう。
それは今でも少しだけ変わらない。
次からは私の誰にも見られたくない部分に触れていこうか。





