RECORD
Eno.361 ジャンヌ土岐マリアムの記録
飛高刈那誅殺記録
ようやく落ち着いたので記録を行う。
事の始まりは一年半程前、ペットを誘拐し怪奇にさせる実験を行っていた狂科学者飛高綴を外道と認定し誅殺した事件だ。
綴のラボを突き止め、先遣部隊として私が赴き、これを誅殺。その後に後続の部隊がペットを保護する手はずだった。
しかし、ペットの一部が怪奇化して暴走。全て倒したが、どの個体が「そうなる」のか判らなかったため、やむなく全頭を「処理」する形となった。
動物を保護する部隊は任務をこなすことなく他の任務へ。ラボの片付けなどが行われたのは私の任務から一週間も後のこととなった。
今でこそ異変の影響で次々と管理局にも有望な人材が集まってきているが、この事件があった当時は人手不足が激しかった頃。
かつ、表世界にどんどん被害をもたらしているということで早急な調査と対策が求められていた。
それ故か調査に不備があり、私の任務完了から片付けが入るまでの間に不確定要素が発生していたことに気づけなかった。
その「不確定要素」こそ、今回誅殺することとなった飛高刈那である。
刈那は綴の実の娘。綴は元々動物の再生医療を研究していた人物で、刈那は綴が博士課程を修めている間に結婚し授かった娘だ。
だが、綴の妻は「生物系を学んでいるというから高給取りの医者になるものと思っていたがアテが外れた」と言って不貞を働き離婚。
その際、不倫相手が雇った悪徳弁護士の協力を得て刈那の親権を得て引き取っていく。この当時、刈那はまだ物心つく前だった。
この後、刈那は異能「恐怖の支配」に目覚める。
これは、相手に恐怖を叩き込みトラウマなどを想起させるなどをして相手の精神を追いやり、ともすればその行動を支配するに至るものだ。
しかしながら神秘の弱い表世界では周囲の友達に何かしら怖さをもたらすだけだった。
刈那はそれを制御することが出来ず誰からも──母親からも不気味がられ始めた──敬遠されて孤独だった。
更に、ウサギの世話をしている最中に「恐怖」に駆られた兎が脱走。高台から落ちて死んでしまう。
この事件のせいで刈那は「お前が兎をイジメたんだろ」と濡れ衣を着せられイジメられ始める。
母親に相談しても不気味がっている母親はまともに取り合わず、学校の教師も関わろうとせず。
刈那の母の再婚相手は既に不在で、生まれ故郷を捨て上京していた刈那の母の両親──つまり自らの祖父母を
頼ることもできなかった刈那はどんどん追い詰められていく。
そんなある日、ふと迷い込んだ裏世界の中で綴の研究所に誤って入ってしまったことで状況は一変する。
そこにいたのは父と、数多くの動物たちだった。
後にペットを誘拐しては実験に使い、キメラを作って生命の神秘を見ようとしていた異常研究者は
この時点では捨て犬や経営の行き詰ったペットショップから動物を引き受けていた。
綴は刈那の名前を聞いて娘であることに気付き、
刈那はラボにある写真が自分の家にある写真と全く同じなのに気付いて綴が父親であると理解する。
やがて刈那がみんなから嫌われていると告げると綴はその能力に気づき、神秘とその使い方を教え、刈那はそれを学んだ。
しかし学んだところで秋の時期。進級とクラス替えには遠く、孤独な期間はまだまだ続く。
刈那にとって、自分の相談に乗ってくれる父と動物たちは最高の家族だった。
綴はさらに、刈那が母親からも孤立していると聞けば「研究を大成させて実績を示し、必ず迎えに行く」とも言った。
刈那は実家に戻る事よりもラボに出向くようになっていく。
だが、功を焦った綴は動物を調達するためにペットショップの動物や、果てには飼育されている犬なども盗んでいくことになる。
刈那は刈那で、遊び呆けているのを疑問に思った母にスマホを調べられそこで父との邂逅が判明してしまった。
父をけなし刈那を叱る母に対し「お前なんか母親じゃない。死んでしまえ!」と叫んだ刈那。
その感情に乗る形で「恐怖の支配」が暴走。刈那の母は逆らうことが出来ずに腹を包丁で刺して自殺した。
母から解放され、父や動物たちと遊ぼうと思っていた刹那。
母の財布から抜き取ったお金で買ってきた珍しい味のジャーキーを、しかし彼女はどの子にもあげることは叶わなかった。
まさしく刈那が母親を殺している間、私がラボを襲撃していたのだ。
刈那は凄惨な現場を見て不調をきたし、喉の渇きをいやすために手にした薬品を飲んだことで
新たな神秘「魔剣変遷(手を触れた動物を魔剣に変え、その魔剣の所有者にその動物の能力を持たせるもの)」に目覚める。
また、ラボの最奥にて再生医療の研究の集大成である「無限再生」の能力を持ったキメラ「ロコ」を確保。
この「ロコ」は元々綴が拾ってきたビーグル犬で、最初は人間不信だったが刈那が懸命に世話をしたことで彼女に心を開き、
ラボの中でも刈那の一番の親友となっていた犬だった。
こうして刈那は、全てを奪った犯人である私を捜していくことになり……先日、とうとう戦いとなった。
ウサギを魔剣にし素早い剣戟を行う刈那と強力な一撃を誇る戦闘モードのロコ。しかし、私達はそれを徐々に追い詰める。
戦闘の最中、私はメタフィジカ「ヴラディスラウス」を解放。
再生能力を持つロコに対し「ツェペシュの緋杭」を発動させその体内にある核を発見、これを破壊した。
だが、自分を唯一救ってくれた父親を奪いそれを否定する世界を憎んだ刈那はロコに対し魔剣変遷を使用。
……この能力、魔剣変遷は。私が魂をやり取りする種族だから感じ取れたのだが。
動物の姿かたちを変える反動として自分の頭にも変化をもたらすものだった。
刈那は頭痛を訴えていたが、これによるものだろう。
刈那の言葉からして一日置けば術の効果は切れて頭は元に戻るものだったらしい。
この力を一日に二度も使った。
刈那の頭の中は。私が少し感じ取っただけでも、異常な変化をしていた。
再生能力も意味はない。再生能力は、刈那の歪んだ頭の構造を元の状態と判定していたのだろう。
この状態の刈那を救うのは、「あらゆる術を無効化する」というような技や道具がなければ不可能だった。
私は、刈那の生い立ちを聞いて救ってやりたいと思ったが……引導を渡してやることしか出来なかった。
「可愛いものは守らねば」
「女性を大切にしなければ」
「不気味で和を乱す者には排除を」
そんな価値観の元に孤立し、追い詰められ。父親とロコ以外の友達を奪った世界を憎み、復讐に明け暮れ。
刈那は、泣きながら死んでいった。
彼女から全てを奪った私がこんなことを言うのもなんだが……「復讐」というものが何をもたらすのか、その最悪の形の一つを見たような気分だ。
……私も、「復讐」に駆られて最悪の失敗を経験している。
刈那のことを他人事とは思えなかった。
宮瀬君が言っていた。
「君が負う責は『罪を償わせることなく罪人に引導を渡した』ことだ」と。
奏が言っていた。
「お前は唯、報復だけを求めた。本人を狙う事を止め、他人を巻き込み、その命を奪おうとした時点で、お前には正当な応報を求める立場はない。
復讐者からさえも外れた……嗜虐に酔った、狂人の行いだ」と
刈那を糾弾する言葉が私の心に深く刺さる。
放っておいても死にゆく刈那をこれ以上見たくなくて引導を渡した私に対する言葉が胸に刺さる。
──私は、これからも『ブラッディマリー』として生きていく。そうあらねばならない。
そんなことを思わずにはいられない、そんな事件だった。
了
事の始まりは一年半程前、ペットを誘拐し怪奇にさせる実験を行っていた狂科学者飛高綴を外道と認定し誅殺した事件だ。
綴のラボを突き止め、先遣部隊として私が赴き、これを誅殺。その後に後続の部隊がペットを保護する手はずだった。
しかし、ペットの一部が怪奇化して暴走。全て倒したが、どの個体が「そうなる」のか判らなかったため、やむなく全頭を「処理」する形となった。
動物を保護する部隊は任務をこなすことなく他の任務へ。ラボの片付けなどが行われたのは私の任務から一週間も後のこととなった。
今でこそ異変の影響で次々と管理局にも有望な人材が集まってきているが、この事件があった当時は人手不足が激しかった頃。
かつ、表世界にどんどん被害をもたらしているということで早急な調査と対策が求められていた。
それ故か調査に不備があり、私の任務完了から片付けが入るまでの間に不確定要素が発生していたことに気づけなかった。
その「不確定要素」こそ、今回誅殺することとなった飛高刈那である。
刈那は綴の実の娘。綴は元々動物の再生医療を研究していた人物で、刈那は綴が博士課程を修めている間に結婚し授かった娘だ。
だが、綴の妻は「生物系を学んでいるというから高給取りの医者になるものと思っていたがアテが外れた」と言って不貞を働き離婚。
その際、不倫相手が雇った悪徳弁護士の協力を得て刈那の親権を得て引き取っていく。この当時、刈那はまだ物心つく前だった。
この後、刈那は異能「恐怖の支配」に目覚める。
これは、相手に恐怖を叩き込みトラウマなどを想起させるなどをして相手の精神を追いやり、ともすればその行動を支配するに至るものだ。
しかしながら神秘の弱い表世界では周囲の友達に何かしら怖さをもたらすだけだった。
刈那はそれを制御することが出来ず誰からも──母親からも不気味がられ始めた──敬遠されて孤独だった。
更に、ウサギの世話をしている最中に「恐怖」に駆られた兎が脱走。高台から落ちて死んでしまう。
この事件のせいで刈那は「お前が兎をイジメたんだろ」と濡れ衣を着せられイジメられ始める。
母親に相談しても不気味がっている母親はまともに取り合わず、学校の教師も関わろうとせず。
刈那の母の再婚相手は既に不在で、生まれ故郷を捨て上京していた刈那の母の両親──つまり自らの祖父母を
頼ることもできなかった刈那はどんどん追い詰められていく。
そんなある日、ふと迷い込んだ裏世界の中で綴の研究所に誤って入ってしまったことで状況は一変する。
そこにいたのは父と、数多くの動物たちだった。
後にペットを誘拐しては実験に使い、キメラを作って生命の神秘を見ようとしていた異常研究者は
この時点では捨て犬や経営の行き詰ったペットショップから動物を引き受けていた。
綴は刈那の名前を聞いて娘であることに気付き、
刈那はラボにある写真が自分の家にある写真と全く同じなのに気付いて綴が父親であると理解する。
やがて刈那がみんなから嫌われていると告げると綴はその能力に気づき、神秘とその使い方を教え、刈那はそれを学んだ。
しかし学んだところで秋の時期。進級とクラス替えには遠く、孤独な期間はまだまだ続く。
刈那にとって、自分の相談に乗ってくれる父と動物たちは最高の家族だった。
綴はさらに、刈那が母親からも孤立していると聞けば「研究を大成させて実績を示し、必ず迎えに行く」とも言った。
刈那は実家に戻る事よりもラボに出向くようになっていく。
だが、功を焦った綴は動物を調達するためにペットショップの動物や、果てには飼育されている犬なども盗んでいくことになる。
刈那は刈那で、遊び呆けているのを疑問に思った母にスマホを調べられそこで父との邂逅が判明してしまった。
父をけなし刈那を叱る母に対し「お前なんか母親じゃない。死んでしまえ!」と叫んだ刈那。
その感情に乗る形で「恐怖の支配」が暴走。刈那の母は逆らうことが出来ずに腹を包丁で刺して自殺した。
母から解放され、父や動物たちと遊ぼうと思っていた刹那。
母の財布から抜き取ったお金で買ってきた珍しい味のジャーキーを、しかし彼女はどの子にもあげることは叶わなかった。
まさしく刈那が母親を殺している間、私がラボを襲撃していたのだ。
刈那は凄惨な現場を見て不調をきたし、喉の渇きをいやすために手にした薬品を飲んだことで
新たな神秘「魔剣変遷(手を触れた動物を魔剣に変え、その魔剣の所有者にその動物の能力を持たせるもの)」に目覚める。
また、ラボの最奥にて再生医療の研究の集大成である「無限再生」の能力を持ったキメラ「ロコ」を確保。
この「ロコ」は元々綴が拾ってきたビーグル犬で、最初は人間不信だったが刈那が懸命に世話をしたことで彼女に心を開き、
ラボの中でも刈那の一番の親友となっていた犬だった。
こうして刈那は、全てを奪った犯人である私を捜していくことになり……先日、とうとう戦いとなった。
ウサギを魔剣にし素早い剣戟を行う刈那と強力な一撃を誇る戦闘モードのロコ。しかし、私達はそれを徐々に追い詰める。
戦闘の最中、私はメタフィジカ「ヴラディスラウス」を解放。
再生能力を持つロコに対し「ツェペシュの緋杭」を発動させその体内にある核を発見、これを破壊した。
だが、自分を唯一救ってくれた父親を奪いそれを否定する世界を憎んだ刈那はロコに対し魔剣変遷を使用。
……この能力、魔剣変遷は。私が魂をやり取りする種族だから感じ取れたのだが。
動物の姿かたちを変える反動として自分の頭にも変化をもたらすものだった。
刈那は頭痛を訴えていたが、これによるものだろう。
刈那の言葉からして一日置けば術の効果は切れて頭は元に戻るものだったらしい。
この力を一日に二度も使った。
刈那の頭の中は。私が少し感じ取っただけでも、異常な変化をしていた。
再生能力も意味はない。再生能力は、刈那の歪んだ頭の構造を元の状態と判定していたのだろう。
この状態の刈那を救うのは、「あらゆる術を無効化する」というような技や道具がなければ不可能だった。
私は、刈那の生い立ちを聞いて救ってやりたいと思ったが……引導を渡してやることしか出来なかった。
「可愛いものは守らねば」
「女性を大切にしなければ」
「不気味で和を乱す者には排除を」
そんな価値観の元に孤立し、追い詰められ。父親とロコ以外の友達を奪った世界を憎み、復讐に明け暮れ。
刈那は、泣きながら死んでいった。
彼女から全てを奪った私がこんなことを言うのもなんだが……「復讐」というものが何をもたらすのか、その最悪の形の一つを見たような気分だ。
……私も、「復讐」に駆られて最悪の失敗を経験している。
刈那のことを他人事とは思えなかった。
宮瀬君が言っていた。
「君が負う責は『罪を償わせることなく罪人に引導を渡した』ことだ」と。
奏が言っていた。
「お前は唯、報復だけを求めた。本人を狙う事を止め、他人を巻き込み、その命を奪おうとした時点で、お前には正当な応報を求める立場はない。
復讐者からさえも外れた……嗜虐に酔った、狂人の行いだ」と
刈那を糾弾する言葉が私の心に深く刺さる。
放っておいても死にゆく刈那をこれ以上見たくなくて引導を渡した私に対する言葉が胸に刺さる。
──私は、これからも『ブラッディマリー』として生きていく。そうあらねばならない。
そんなことを思わずにはいられない、そんな事件だった。
了