RECORD

Eno.560 綴 椛の記録

八通目 祈り


[北部学生区][アザーサイドチャペル]
もみじ [Eno.560] 2025-07-03 20:13:03 No.3029527

「天ヶ瀬先生、質問があるんですけど…」

ててっとシスターの元に寄っていく。
どう尋ねるか迷う仕草から、意を決した様子で口を開いて。

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「信じるものって……祈る相手って。
 もう……、……遠くにいる人、でも」


「……いいんですか?」


[北部学生区][アザーサイドチャペル]
もみじ [Eno.560] 2025-07-03 20:15:06 No.3029664

シスターにお辞儀をしてから離れ、隅の方へ腰かける。
ぱちん、とクリップボードに新しい便箋を挟む音。
ペンを手に取り、目を伏せて。
深く息を吐き出すと、かりかりと何事かを書き出していく。

「……」

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お兄ちゃんへ

宗教学特別演習って講義が気になって、お話を聞きにきています。
名前はこんなだけど宗教のお勉強をするんじゃなくて、
お祈りで神秘が使えるようになる授業なんだって。

だれも傷つけない方法で、怪奇にも何もできないから
気をつけてって先生が言っていました。
でも、だから私にも出来るかもって思いました。

自分でも戦えるようにならないとって思ってて、
いろんな人に聞いたり教えてもらってたんだけど、やっぱり怖くて。
できないことで無理するより、できることをがんばってみようかなって。

それで、お兄ちゃんにお願いがあります。
このお祈りは、何を信じていてもよくて、
思いやる心とか人の幸せを願う気持ちが大事なんだって。

私、


「……」








私、お兄ちゃんに祈ってもいいですか?







天使様も、神様も。
いくら祈ったって、何を願ったって叶えてはくれない。
人に頼ったところでこの望みは叶いようがない。

お兄ちゃんにもう一度会いたい。
それだけの願いがどれほど難しく叶うはずがないことか、自分が一番わかっている。

だから信じられるものなんてないと。
祈る先なんてない自分には最も向いていないとすら思っていた。

だけど。






お兄ちゃんが苦しい思いをしていませんように。
悲しいことがありませんように。
今度は好きなところに行けて、おいしいものを食べられて、
お兄ちゃんが幸せでありますように、って。

取り返しがつかない、ひどいことした私が言うの、今さらだよね。
ごめんなさい。
でも本当にお兄ちゃんが元気にすごせることを願っています。

どうかお祈りすることをゆるしてください。
それで、きっとずっと幸せでいてください。

椛より







[北部学生区][アザーサイドチャペル]
もみじ [Eno.560] 2025-07-03 20:18:33 No.3029864

ペンを置く。俯いて指を組み、目を伏せる。

「…どうか、届きますように」

信じ仰ぐことが信仰なら、これも信仰なのかもしれない。
信仰心なんて自分にはないと思っていたけれど。


瞼を上げ、丁寧に便箋を畳んで封筒に収める。
宛先を書いてファイルに挟み、鞄にしまえばもう一度目を閉じる。
そうして一呼吸してから立ち上がり、静かにこの場を後にした。

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