RECORD

Eno.414 水貝 弥白の記録

お母さん

 母は、水貝の家に都会から嫁いできた人で、最初は地方の暮らしに慣れるのが大変で少し気鬱もあったけれど、元気になってからはよく自分の住んでいた土地での生活を話してくれた。仕事終わりに映画を見たり、休日にふらっと仲間内で集まって企画展に行ったり、都会に集まる楽しいことや美味しいものを楽しむ生活、そこでの振る舞い方をよく話してくれた。あまり地元にはいないタイプの、自分で言うのもなんだけど洗練されたお母さんって感じの人だった。実は話すときにはちょっと緊張してた。

 怪奇に襲われた後、母は父に頭を下げたまま、震える声で謝り続けていた。どうも母方の親戚にも悪いものを呼び寄せる体質の人がいたらしく、ある朝に祖父は神隠しにあい、叔母は早くに病魔に冒され、帰ってくることはなかった、らしい。だから母の血のせいで父の子である俺を失いかけたんだ、と。俺と弟の曙乃を危険に晒すことになっている今の状況は自分のせいだと自責の念に駆られて、調子も崩していた。父はずっとそれは違うと言っていたけど、その言葉が届いたかはわからなかった。

 引っ越しの少し前、少し調子が戻ってきた母が食事を作っていたとき、手元が狂って包丁でケガをしたんだ。代わるからいいよと慎重に包丁を預かる際に、つい、本当につい、神秘の力で母の怪我を治したんだ。その時の母の顔が今でも頭の隅に焼きついている。

「こんな力じゃ今度こそ連れて行かれちゃう。ごめんなさい。せめて強く産んであげることもできなくて、ごめんなさい弥白、ああ、ああ」

 大丈夫だって、大学に行って遊んで勉強するだけだから。心配性だなあ、ほら曙乃もこっち見てるから…いなくなったりしないから。

 俺は、自由で洗練された母を壊した怪奇が    。