RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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むしろ、疑問に思っていた。
受けた仕打ちを考えれば、むしろトラウマになっていると考えていた。

彼女が恋愛感情を抱けることが。
手をつないだり、触れたり、そういったことが平気だということが。
権力者に尊厳を踏みにじられた彼女が、異性に寄り添えることが。



過去のこととして片付けられるのであれば、復讐に囚われたりしていない。
それを忘れ去られるのであれば、自罰的な言い回しをしない。
……自罰的な言葉は付き合い始めてから随分と減ったけれど。
そんなにすぐに人が変われるものと思っていなくて。
だから。

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アヤメ [Eno.763] 2025-07-04 19:45:42 No.3079853

「…………」

なんとも言えない顔。
きっと嬉しいんだろうけど、それだけじゃないような気がする。
なんだか知るのが怖いような、目を背けているような感覚。

「……分からない、ですかね」
「そういう誠さんはどうなんです……?」

なんでこんな気持ちになっているんだろうか。

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アヤメ [Eno.763] 2025-07-04 20:07:18 No.3080983

「…………」

無言で手を握る。手は勿論恋人繋ぎ。
これは出来る。大好きなのは間違いないのだから。

けれど、それ以上キスは……。

「……私、その」
「…………」

自覚していなかったけれど、嫌なのか?
恋人なら当たり前にやる行為に、何故拒否反応が出るんだ?
分からない?気付きたくない?思い出したくない?

思考がぐるぐる巡る。何処か上の空で。

「……帰りましょ、っか」

辛うじて言葉に出来たのが、それだけだった。

発言を一時的に非表示にする


境界線を見つけた、気がした。
いつか知らずの内に触れてしまい、危害に転じてしまう可能性は視野に入っていた。
だから触れる前に一線を見つけられたことは幸運だと思う。
恐らく彼女は無自覚で、無意識の拒絶があるのだろう。
俺が初めてではない。すでに奪われている。
自分が想像もつかないほどに虐げられているであろう身だ。
気付けば強く強く拳を握り締めていて、血が湧きたつような感覚に襲われて。
明確な怒りが狂暴性と手を組んで、衝動に駆られそうになる。



知る、という行為は相応に破滅と同義だ。
知らなければ少なからず現状を守られる。
知らないフリをして、踏み込まないように気を付ければいい。
こちらだけが知覚した傷に、わざわざ触れにいく必要はない。

何も知らなければ、この穏やかな日々が続く。
知らないままで在り続けたら、お互いに傷つくことはない。



「俺が、手を挙げなかったら。
 強く求めなかったら、大丈夫。
 知らないままで居れば、この関係が続くはずだから」



―― 獣のような、強い衝動を持っておいて。
本気で、自分はそれが守れると思っているのか?
いつか突き動かされた熱情を振りかざしてしまうことを。
この先怯えながら過ごすことは、覚悟の上だろ。