RECORD
Eno.232 月影誠の記録
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むしろ、疑問に思っていた。
受けた仕打ちを考えれば、むしろトラウマになっていると考えていた。
彼女が恋愛感情を抱けることが。
手をつないだり、触れたり、そういったことが平気だということが。
権力者に尊厳を踏みにじられた彼女が、異性に寄り添えることが。
過去のこととして片付けられるのであれば、復讐に囚われたりしていない。
それを忘れ去られるのであれば、自罰的な言い回しをしない。
……自罰的な言葉は付き合い始めてから随分と減ったけれど。
そんなにすぐに人が変われるものと思っていなくて。
だから。
︙
︙
境界線を見つけた、気がした。
いつか知らずの内に触れてしまい、危害に転じてしまう可能性は視野に入っていた。
だから触れる前に一線を見つけられたことは幸運だと思う。
恐らく彼女は無自覚で、無意識の拒絶があるのだろう。
俺が初めてではない。すでに奪われている。
自分が想像もつかないほどに虐げられているであろう身だ。
気付けば強く強く拳を握り締めていて、血が湧きたつような感覚に襲われて。
明確な怒りが狂暴性と手を組んで、衝動に駆られそうになる。
知る、という行為は相応に破滅と同義だ。
知らなければ少なからず現状を守られる。
知らないフリをして、踏み込まないように気を付ければいい。
こちらだけが知覚した傷に、わざわざ触れにいく必要はない。
何も知らなければ、この穏やかな日々が続く。
知らないままで在り続けたら、お互いに傷つくことはない。

―― 獣のような、強い衝動を持っておいて。
本気で、自分はそれが守れると思っているのか?
いつか突き動かされた熱情を振りかざしてしまうことを。
この先怯えながら過ごすことは、覚悟の上だろ。
受けた仕打ちを考えれば、むしろトラウマになっていると考えていた。
彼女が恋愛感情を抱けることが。
手をつないだり、触れたり、そういったことが平気だということが。
権力者に尊厳を踏みにじられた彼女が、異性に寄り添えることが。
過去のこととして片付けられるのであれば、復讐に囚われたりしていない。
それを忘れ去られるのであれば、自罰的な言い回しをしない。
……自罰的な言葉は付き合い始めてから随分と減ったけれど。
そんなにすぐに人が変われるものと思っていなくて。
だから。
「…………」
なんとも言えない顔。
きっと嬉しいんだろうけど、それだけじゃないような気がする。
なんだか知るのが怖いような、目を背けているような感覚。
「……分からない、ですかね」
「そういう誠さんはどうなんです……?」
なんでこんな気持ちになっているんだろうか。
「…………」
無言で手を握る。手は勿論恋人繋ぎ。
これは出来る。大好きなのは間違いないのだから。
けれど、それ以上は……。
「……私、その」
「…………」
自覚していなかったけれど、嫌なのか?
恋人なら当たり前にやる行為に、何故拒否反応が出るんだ?
分からない?気付きたくない?思い出したくない?
思考がぐるぐる巡る。何処か上の空で。
「……帰りましょ、っか」
辛うじて言葉に出来たのが、それだけだった。
境界線を見つけた、気がした。
いつか知らずの内に触れてしまい、危害に転じてしまう可能性は視野に入っていた。
だから触れる前に一線を見つけられたことは幸運だと思う。
恐らく彼女は無自覚で、無意識の拒絶があるのだろう。
俺が初めてではない。すでに奪われている。
自分が想像もつかないほどに虐げられているであろう身だ。
気付けば強く強く拳を握り締めていて、血が湧きたつような感覚に襲われて。
明確な怒りが狂暴性と手を組んで、衝動に駆られそうになる。
知る、という行為は相応に破滅と同義だ。
知らなければ少なからず現状を守られる。
知らないフリをして、踏み込まないように気を付ければいい。
こちらだけが知覚した傷に、わざわざ触れにいく必要はない。
何も知らなければ、この穏やかな日々が続く。
知らないままで在り続けたら、お互いに傷つくことはない。

「俺が、手を挙げなかったら。
強く求めなかったら、大丈夫。
知らないままで居れば、この関係が続くはずだから」
―― 獣のような、強い衝動を持っておいて。
本気で、自分はそれが守れると思っているのか?
いつか突き動かされた熱情を振りかざしてしまうことを。
この先怯えながら過ごすことは、覚悟の上だろ。

