RECORD

Eno.54 四門 眞悟修の記録

邂逅_あるいは四十男に降りかかった転機


神秘と初めて遭遇したのは、何年か前のことだ。
その日は久方振りに早く帰れて、夕焼け空を見上げながら家路に着いていたことを覚えている。
ふと空から目を下ろすと、眼前には全く見覚えのない道が続いていた。

所謂、神隠しだったそうで。


人間一人がどこかへと迷い込む。劇的には程遠い、何てことはない話だ。

しかも運が良いことに、丁度調査に来ていた『機関』の関係者にすぐに見つけられた。
時間感覚の定かではないところだからか、中では半刻ぐらいに思えたが、
表に戻って数えてみればたった数分のことでしかなかった。

思い返しても、派手さも格好の良さもない巡り合わせでしたね。


間違いなく、それから行った健康状態の確認やら、事情説明の方が長い時間かかっていました。


『機関』からの話は…私には非常に興味深く思えた。
未だ明かされざる様々な具象。お伽噺や神話でしか耳にすることのないそれらが実在したのだと言う。
未知なるものを解明することが、科学者としての本分だ。
ただし、話の続きに問題があった。

科学と神秘は、すこぶる相性が悪いと。


仮に怪奇と呼ばれる存在に許可を取って採血をさせてもらったところで、
成分分析は無理だろう、DNA検査なんてのは以ての外か?
レントゲンで骨格を見るのも難しいだろうし…まあそもそも私は生物の知識は乏しいのだけど。
ともかく、今私が知る科学的手法で神秘を調べるというのは、相手にとってリスクが拭えない行為であるらしい。
しかし、目の前に急に現れた未知は、馬の目の前に吊るされた人参に等しいものだ。
これに目を背けて、どうして生きていられるだろう?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かつて、今よりも神秘が濃かった時代。人々は如何にして神秘に向き合っていたのか。


郷に入っては郷に従えと云う。科学でダメなら神秘を用いて向き合えばいい。
先祖からの血筋や、智慧溢れる師匠、なんて特別な何かは私にはない。
であるならば、まずは私自身を作り変えるしかないだろう。

とある伝承において、その男は魔術師とされた。全ての異端の祖にして、始まりの書物にも記された存在。


私は彼ではないが、彼は私になる。
名とは、ある視点においてはその者の全てである。
よって、これからの私はこう名乗ろう。

私の名前は四門しもん 眞悟修まぐす。どうぞお見知りおきを。