RECORD

Eno.1379 久瀬 あざみの記録

①ー⑤


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あざみ [Eno.1379] 2025-07-08 03:05:59 No.3392900

あぁぁあああぁぁぁぁぁぁ

七回目の死を迎えようとしたとき、ついに私は痛みに耐えきれず叫んでしまった。
続く痛みとストレスで過剰に分泌されているであろうエンドルフィンや、
ドーパミンなどの脳内麻薬で狂騒してしまい、
もう自分の身体のどこを突き刺して斬りつけたのか曖昧になってきていた。

深々と刀の突き刺さる箇所は右胸の下辺り。
位置的には肝臓。訪れるのは痛みに対しての死のコスパが悪い失血死。
身体からドクドクと流れ続ける赤黒いものが、前回の死で汚れた地面を更に染めあげる。

いつか背中から肝臓を刺して殺した怪奇のことを思い出し、
相手もこの痛みを感じていたのだと、今更ながらに自覚した。

恐らくこの痛みは、何かしらの罰なのだろう。
自罰を受け続けるのも、何かしらの罪に対しての贖いなのだろう。

自分が『記憶』というものを大切にしておきながら、
他者の『記憶』というものを否定して壊そうとしている。
この矛盾に対しての何かしらの罰も、きっと訪れるのだろうな。

……あぁ、やっと眠くなってきた。本当にこの部位は死ぬまでのコスパが悪いや。
まだ少女の魂は私の中に残っている。だからまだ、続けなくちゃ……

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-08 03:26:16 No.3393491

…………
………
……

何十回、何百回、下手したら何千回。
もう数なんて数えていないけど、いったい私は何回死んだんだろう。
途中で耐えきれなくなり何度も何度も発狂しては、
自分の中の大切な『記憶』や私が自由に話せる人たちの顔を思い出しては正気に戻るのを
もう何度も何度も繰り返した記憶は、薄っすらと残っている。

確か土曜日の朝からここに来て、どれ程の時間が経ったのだろう。
私の血がこびりついたスマートデバイスの画面を指で拭って、
誰かにSURFを送った。文面は思い出せない。

ただ、月曜日の部活には行けそうもないことを伝えたと思う。
画面には私なんかのことを心配してくれている文字が表示されている。
それを見たらなんだか涙が溢れてきて、早く帰りたい気持ちと、
こんなこと自分と相手を殺すことをし続けている私には、とても眩しすぎる世界に思えてきてしまって、
帰っても、人に合わせる顔がないような気持ちにもなってしまう。

SURFの画面を凝視し続ける左眼の奥が痛い。
ズキズキとした痛みと共に、涙とは別種のものが溢れ続けているのを感じる。
そして全身が熱を持ち痛み続けていても、少女の魂の悲鳴が私の心の中でこだましている。
まだ終わりそうにない。

私はもう何度目かもわからない痛みを伴う行為を行って、強制的に眠りに落ちた。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-08 08:18:57 No.3399014

スマートデバイスの画面が明滅していることに気づき、ふと正気に戻れた。
画面を確認しようと動かない左腕を掴み上げようとするも血でぬるりと滑り、
上手く画面を見ることができない。
地面に伏せて腹ばいになり、左腕を固定。強引にその内容を確認する。
現在時刻は8日の朝らしい。

昨日、部活に行けなかったのがかなり悔しい。
きっとお祭りなら新作のかき氷だってあったはず。
他にもお祭りなら美味しい屋台もたくさんあったはず。
それらを食べてみたかった。

そういえば土曜日から何も食べていない。
もしかしたら不死性というのは飲まず食わずでも平気なのだろうか。


「つまんないな……そんなの」

食事を楽しむ必要もないなんて本当につまらない。
フライドポテト食べたいなと思いながら自身の腹に刀を突き刺し強引に意識を落とした。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-08 18:15:53 No.3420839

SURFに並ぶ気になる文字列を見て、絶対に帰らなくちゃと思った。
一生このままここで死に続ける殺し続けるだけの人生は嫌だ。

まだまだ知らない場所はいっぱいあって。
まだまだ食べたことないものもいっぱいあって。
気になるものも、本当にいっぱいあって。

一刻も早くこんな場所から抜け出したい。
崩折れてもう立つ気力もなかったのに、我ながら単純な人間だ。
でも、食べたいし遊びたいし、どこかにだってもっと行きたい。

だから、こんな場所で壊れたままじゃいられない。

まだ微かに感じる少女の魂。
心の中で繰り返されるその嘆きと残響に終止符を討つために。


まだ私は負けてない!!!

痛みで発狂し喚き続けていたせいで掠れてしまった声で叫ぶ。
刃こぼれと血脂で切れ味の落ちたなまくら刀を力強く握り込む。
前に進むために、その刃を首筋に滑らせた。しばらくしてまた強制的な眠りに落ちる。
私が死ぬ少女を殺すたびに左眼の痛みは酷くなっていく。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 02:00:07 No.3452056

何度も蘇って何度も殺して。
全身に残る痛みと熱にも麻痺してきてしまった頃。
自死をする感覚にも慣れてしまった頃。もう何回死んだかすら覚えていない頃。
私の中に感じていた少女の魂が静かに消えていくのを感じた。

自身のプライドであった刀。自殺に選ばなかった刀。
それを用いて数日間に渡り、何百回も何千回も死に続け、
少女の魂を精神的な死に至らしめる。
そんな無謀にも思える戦いに、ついに私は勝ったんだ。

その最中、私は何度も発狂しては正気に戻るを繰り返していた。
このまま一生を過ごすのだとも本気で思えていた。
私自身の精神も最終的に壊れてしまうんだと思っていた。

けれど、ついに、このつまらない悪夢は終わりを迎えたんだ。


「はは……やった、ついに殺せた……」

そのまま崩折れる。ビシャと水音が周囲に響く。
夜間で固定されているこの場所で時間感覚はもう麻痺していたが、
恐らくは数日間に渡る自死によって、周囲は赤黒く染まっていた。
私が倒れたこの場所にも赤い水たまりが出来ている。
流れ出たものによって川も赤く染まっていた。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 02:15:25 No.3452780

もう帰りたい。誰かと話したい。笑いたい。何かを食べたい。
そんな気持ちを抱くも精神的な疲れが一気に出てしまい、気が抜けてしまった。
一歩も動けそうもない。立ち上がる気力すらない。

恐らく、このフィールドの主であるあの夢に出てきた少女を殺した今、
じきにここも崩壊するのだろうか。
動けない私はその崩壊に巻き込まれて、もしかしたら一生帰れないかもしれない。
などと考えながら瞳を閉じる。自分に待つ運命を静かに受け入れる――

――けれど、いくら待とうともフィールドの崩壊は訪れなかった。

さすがにおかしいと残った痛みを引きずりながら身体を起こす。
恐らくは少女の魔力によって形成されたこの空間。
その崩壊が起こらない原因は何故だろう。この悪夢は少女が見せていたはずなのに。

まだ死の余韻から覚めきらず、ぼんやりと霞がかった頭でしばらくの思考。

残っている。まだ少女と同じ魔力を有する存在が。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 02:35:16 No.3453778

腰のシースに収めていた神秘遺物短剣を取り出す。
ゆっくりと目を開ける。左眼が鈍い輝きを放つ。神秘を通してそれを視る。
右手に収めたそれは金属であるはずなのにドクドクと心臓の鼓動のように打ち震え、
そこに魂の存在を感じさせた。


「ひっ……」

何か気持ち悪いもののように感じてしまい思わず手を離す。
ビチャと水音を立てながら赤い水たまりに沈む。
しかし、鼓動に応じるかのように、徐々に水たまりの水位が減っていく。
まるで水でも飲むかのように、私の血をすすっている。飲み干している。

じっと視る。神秘を通してそれを視る。魂を視る。その本質を視る。
少女が生み出した『彼』の存在を視てしまう。


『縺翫?繧医≧縺斐*縺?∪縺』

眠っていた『彼』が目を覚ました。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 03:00:25 No.3454676

私は勢いよく立ち上がり近くにあった少女の刀を手に取り、
神秘遺物短剣を叩き切ろうと試みた。
物打で捉える。けれど金属音が周囲に響くだけで効果はないように見えた。


「……」

私の力の源は、ほぼこの神秘遺物だ。
ただの女子高生がナイフや刀を扱えるのも、
森の中を逃げ惑っても疲れない体力や身体能力も、
少女を殺せるに至った不死性も、
全てこの神秘遺物からの影響バフによるもの。

そんなものを付与出来る目の前のこれは相当な代物なのだろう。今更だが。
拾ってから今まで一切勝手に動かず、喋りだしたりもしなかったそれが今、
ゆっくりと理解できない言葉を紡いでいる。

古びた黒色の短剣が、錆びついている刀身が、
一目で誰も殺せそうにないなまくらだと理解出来るそれが、たまらなく恐ろしく感じる。

恐らくは……このフィールドの形成も『彼』の仕業なのだろう。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 03:22:11 No.3455153

恐ろしくなり何度も何度も斬りかかる。だが攻撃は一切効いてる様子もない。
そんな私を見かねてか、神秘遺物はゆっくりと言葉を紡ぐ。


『蜉ケ縺阪∪縺帙s繧』

何を言ってるのかわからない。思わず私は反射的に叫ぶ。

はっきり喋れ!

左眼の奥に電気のような痺れと痛みが広がる。

『なんなのですか突然。身勝手すぎではないですか。
 無駄に斬り掛かったと思ったらお次は罵倒ですか』

突然、理解出来る言葉で『彼』の声が聞こえてきた。
冷や汗が流れる。しかし、こちらも言葉を続けるしか他に道はない。


「……お前がこの空間を作ったのか」

『えぇ、そうですとも。
 まさかお嬢様を殺されるとは思いもよりませんでしたが』

「お嬢様……」

『無論彼女のことですよ。わたくしの大切なお嬢様でした。
 死して尚、お強かったでしょう?メンタルはまぁアレなお方ですが』

「お前がお嬢様って呼ぶ存在を殺した相手に怒らないんだな……」

『まぁもう死んでますから。少々思うところはありますが……
 怒りに任せてあなたを殺しても無意味でしょう。
 わたくしは無駄なことは極力しない主義ですので』

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 03:54:04 No.3455866

『先ほどからあなたはわたくしに何かを聞きたいとお思いでしょう。
 疲れるだけなので無駄な腹の探り合いはやめにしましょう。
 もう数年の付き合いなのですから。ほら、どうぞ』

気持ち悪い……
だが質問をしたいという気持ちは確かにある。
妙な馴れ馴れしさに顔を引き攣らせながら、私は『彼』に質問を投げかける。


「お前が私に悪夢を見せて、その悪夢に出る空間に私を招いた?」

『その通り。だって、わたくしのことを拾ってからでしょう。
 あなたが夢を見るようになったのは。
 考えたらすぐに理解出来そうなものですが』

「……そんなものを私に見せて、どうしろと?」

『単刀直入に言えば、死後も苦しんでいるお嬢様を救って欲しかった。
 わたくしでは救ってさしあげることは不可能だったので。
 まぁ……もう無駄に終わりましたが』

「なんで私に?私はお坊さんでもなんでもない。
 おばけを成仏なんて出来ない……」

『それは、あなたがわたくしを拾ったので』

「……それだけ?」

『それ以外に何があるのでしょう。質問の意図がよくわかりませんが』

「だから、たったそれだけで私に悪夢を見せ続けたの?」

『そうですよ。お嬢様の『記憶』人生を追体験して頂いて、
 そこから救いを考えてくださるのなら誰でもよかった』

「私のことをなんだと思ってるの」

『別になんとも。あ、そうそう。
 わたくしを持つことによる効力は一番活用されてらっしゃいましたね。あなたは普通の人よりも生きづらい気質をしているのに、
 平然と学び舎に行けるのも、御学友と遊べるのも、
 全てわたくしのお陰ですからね。感謝して欲しいくらい』

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 04:14:49 No.3456341

うるさい。黙れよ

尚も饒舌に言葉を続けていた神秘遺物が、私のその一言で突然口を閉じる。
左眼の奥が、そこと繋がる頭が、割れそうなほど痛すぎて、思わず瞳を閉じる。


「……私の身体のことは、生まれ持った気質のことは、
 私個人が受け止めていかないといけないもので、
 向き合っていくもので、お前がどうとか関係ない」

「確かに便利だった。
 精神的には疲れても肉体的には疲れなかったから。
 でも、私はそんなものいらない」

「お前に何がわかる。
 成仏させてくれだの身勝手に押し付けてきたお前に。
 私がどれだけ悪夢に苦しめられてきたのか。
 お前の身勝手さにどれだけ私が嫌な思いをしてきたか」

「わかるわけないよな。ただの物の分際でッ!!!」

「お前も苦しかったのかなってなんとなく感じるよ。
 でもさ、私である必要なかったんだろ?」

「私である必要性があったのなら私も頑張れたかもしれない。
 でもそうじゃないなら、なんで私に押し付けるんだよ……」

「ああもうッ!!!ムカつくんだよ!イラつくんだよ!
 なんなんだよその理由はッ!!!」

「誰でもよかったじゃねえ!!!」

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 04:22:25 No.3456476

目を開く。私に身勝手なものを押し付けてきた神秘遺物を見据える。
左眼がズキズキと痛む。電流のようなものが流れる感覚。
視神経を通して脳が揺さぶられる。激痛。吐き気。
痛みを伴いながら私は静かに言葉を吐く――

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⑬ー『つまらない夢の終わり』

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 04:23:01 No.3456488


死ねよ

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 05:33:03 No.3457589


その言葉と視線に呼応するように神秘遺物は砕け散った。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 05:34:59 No.3457650

身体から急激に力が抜ける。立っていられず思わず膝をつく。
神秘遺物からの影響バフが切れたことを意味している。
そして同時に左眼と頭がズキズキと痛み、呼吸と共に脈動する。
瞬間、ドロリとした粘性のある赤黒い何かが左眼から垂れ落ち、私の衣服を汚した。

空間が大きな唸りを上げる。轟音と共に大地が揺れる。
痛みに耐えながら目線を上げる。
するとフィールドの端から徐々に闇に包まれているのが理解出来た。
この空間を作っていた神秘遺物が砕け散った影響ということが直感的に理解出来る。

今すぐここから逃げなければ……

重く感じる身体を引きずり、眼の奥の痛みに耐えながら、
私は出口に向かって歩を進める。もし間に合わなければ死ぬのだろう。
もう不死性なんてないのだから。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 05:53:36 No.3457978

紡いできた『記憶』を大切にしているのに、
私は誰かの『記憶』を壊してしまった。

それはとても許されることではないのだろう。
他者の『記憶』を否定した罰としていつか報いを受けるのだろう。

左眼の痛みがそれを教えてくれている。
身体に残った痛みがそれを教えてくれている。
もう後戻りは出来ない気がした。

前を向いて生きていく。

そう何度も自分に言い聞かせてきた言葉。
だが一つだけ疑問が残る。

前とは一体どこを指しているのだろうか

もしかしたら私の進行方向は他の人から見れば後ろなのかもしれない。
そう感じながらも、私は前を向いて生きていく。

今はそれしか出来ないのだから。

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あざみ [Eno.1379] 2025-07-09 06:09:55 No.3458155

「はぁ……はぁ……ただいま……」

もう一人暮らしのはずなのに、無意識に呟いてしまった。
あの空間からここまでの道のりでとても息が上がる。
体力の無さを実感してしまう自分の身体を引きずりながら、
どうにか家まで帰ってこれた。

赤く染まってしまった衣服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
全身に纏わりつく乾いて固まった赤黒いものを洗い落とす。

シャワーを浴び終え、ゆっくりと自室に入っていく。
その左腕は力なく垂れたままだ。

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次回に向けて

日常に帰ってこれた。けれど私の左腕は動かないままだ。
それに戦闘能力も失った

もうナイフも上手く扱えはしないだろう。
もう体力がなさすぎて日常生活もしんどいかもしれない。
もちろん不死身でもなくなった。

色々なものを失った自分にも一つだけ新たな神秘の目覚めを感じた。
今改めて、こうしてまとめたものを読むと、相手は私の言葉と視線の通りになっている。

これからどうなるのか私自身もよくわからない。
ただ一言、言葉を残すのなら私は普通の女の子になりたいということ。

何度も死に続けることを選んだ人間は普通じゃないと思う。
人型の怪奇を殺すことに躊躇いのない私は普通じゃないと思う。
神秘というものを宿している自分は普通じゃないと思う。

普通の女の子になれるのならば、私はこの左眼の神秘と北摩市という神秘が溢れたこの街の『記憶』捨て去ってもいい

『記憶』は私にとって大切なものなのに。今はそう感じている。