RECORD

Eno.1379 久瀬 あざみの記録

『記憶』について

私には大切にしているものがある。
その名前は『記憶』
以前は『記憶』についてネガティブな気持ちを抱いていた。

けれどこの街で過ごしていくうちに紡がれた『記憶』は、
良いものであっても、悪いものであっても、今の私を形成する大切なパーツのように感じている。

誰かと遊んだこと、声を上げて笑ったこと、楽しかったこと、美味しいものを食べたこと。
痛かったこと、辛かったこと、泣いてしまったこと、心が崩折れてしまったこと。

それら全ては私の大切な『記憶』なのだろう。

うさぎは一人が寂しいから死ぬんじゃない。
他者との触れ合いを覚えてしまったから死んでしまうんだ。

この街に来てまだ慣れていない頃にそう言われた。
私はこの言葉を、この街の生活に慣れた今でもずっと覚えている。

私にとって『記憶』はとても大切なものだ。
けれどなぜだろう。時々、胸がざわつくことがある。

あんなに楽しかったはずの出来事を思い出そうとすると、
その輪郭がふと、霞のようにぼやけて見える瞬間がある。

だから私は、こうして書き留めておきたいのかもしれない。
この温かい気持ちが、薄れてしまわないように。
この確かな手触りが、指の間からすり抜けていかないように。
この日々が幻ではなかったと信じられる、消えない刻印のように。

うさぎの話が頭から離れない。
他者との触れ合いを知ってしまった喜びと、
その温もりがいつか遠くにいってしまうような、名前のない不安。

私は、その両方を抱きしめている。