RECORD
ある日の会話5
辰森ユキにとって、それは自身の神秘について触れる機会でもあり、竜の住まう異界を知る機会でもあった。
真面目に、と思いつつもやはり楽しいものだった。

「ウチんとこはね、基本的にすべての欲望に対して肯定的なんだ。
勿論、我々も人間同様に社会を持っていて、法や倫理も当然ある。
そこに沿わぬものは許されない。まあ当然ながら内心にそれを抱えるのは自由だが、ね」
当然の話、と思えるのも、それさえ許されない時代を越えてきたからこそだ。

「我々は宗教を持たぬ故、法も倫理も人の子らに倣った部分は多くあるがね。
全てを肯定的に捉えるというのは、それを知ることで自ら抑制を課す事が出来るからだ。
……出来るんだよ。出来ん奴は法の下に裁かれるか、社会から弾かれる。
社会から弾かれた者も早晩法に触れる事になるが……ま、それはどうでも良い。
今日私が君にしたい話は、君にとって今最もホットな欲望の話だ」
裸眼なのに眼鏡をくいっとする仕草。どこで覚えたそんなもの。

「愛欲……情欲……独占欲。ああああ、ちょっと待ち給え辰森氏。R-15まで行かないから。」
教師と生徒は一人ずつだがオブザーバーの辰森コウ氏もいた。

「おかしな話はしないさ。誰の中にも秘めたる欲望の話だよ?知らない方が怖い話でもある。
君たちの基本方針でもあったろう?自覚については、さ。
今言った欲望ってのはまあ、諸説あるが……ざっくり言って性欲が根源にある」
諸説あるで予防線が張れるのだろうか。

「まあまあ、まあまあまあまあ、愛は脳が見せる幻だとまでは言わないさ。
それに私は肯定的に捉える、という話をしている。うんまあ、ユキくんはいまいちピンと来ていないようだが。
番う相手が欲しいと思う気持ちは、性欲……というか、生存のための一つの戦略だ。
別の方法としてはコミュニティに属するだとかがあるが、
集団で行われるケアと、個々で行われるそれは異なってくる。
どちらが良いとかそういうのは一概に言えることではないが、
個人間の方がより繊細で、緻密なものとなるだろう」
ここまではOK?と一息入れて。

「そのように相手に接するにはより深く相手を知らなければならないし、
時に深く──接触する必要があるだろう」
すごく言葉を選んだ。

「そして逆もまた然り。
相手にもっと自分を知って欲しいと思うだろうし、自分だけを見て欲しいとさえ思うだろう。これが独占欲。
そのように思うのは自然なことだ。
独占欲を心の中に持っていても良い……それで君が辛くて耐えられなくならない限りは。
だが、その辛さを他人や誰か特定の相手に向けてはならないよ。
そうして誰かを傷つければ、君はそれ以上に深く傷つく。そうなれば誰も幸せにはなれない。
宗教では欲を捨てろと言うが……まあ、それ自体は間違いじゃない。
心安らかに生きるための指針としては、ね」
ここでちょっと悪い顔をする“異界の竜”。

「この独占欲って奴と上手く付き合う方法がある。
──最終的に隣に居るのは自分だ、と思えば良いのさ。え?どっかで聞いたセリフだって?ハハハハ。
彼の寿命が如何程かは知らないが、少なくとも君はだいぶ長生きだ。
老いさらばえて死にゆく誰かさんを尻目に……ってうおそんな怖い顔しないでほしいな、辰森氏」
オブザーバーがお怒りで今日の授業はおしまい。